ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

翌朝、和斗は六時半から厨房に立っていた。

厨房の窓から見える空は今日も晴れているが、雲が多くて薄曇りに近い。ガスコンロに火にかけた鍋で湯が滾っている。

和斗は火を止めると、湯の中に殻付きの卵を入れた。スマホで見たレシピでは、このまま十五分ほど放置すれば、温泉卵ができるらしい。

ゆうべは居酒屋の営業を終えて片付けと荒いものを済ませると、さすがにくたびれて、シャワーを浴びてから間もなく眠った。

まだまぶたが重いが、のんびりできないからはやめに起きた。皿井からは何の連絡もないだけに、今日も一人の営業になりそうだった。

仕事は大変だが、自分が作った料理を葉月に食べてもらえると思ったら、張り合いもある。あと三日で葉月は帰ってしまう。その間に彼女の笑顔をもっと見たい。

和斗はオクラを塩もみしてから、もうひとつの鍋で茹でた。そのあいだにミョウガを縦に刻み、茹であがったオクラは小口切りにした。さらに皮を剥いたショウガをおろし、青ネギを刻み、ナスのヘタを切り落とした。

今朝の朝食は温泉卵とオクラの素麺、焼きナス、キュウリの浅漬けだ。夏らしいメニューで簡単なものを選んだつもりだが、作るのは意外に面倒だった。

ナスをフライパンに入れ、油を引かずに蓋をして十分ほど焼き、皿にとった。スマホで見たレシピでは粗熱が取れてから皮をむくとあったが、いつまでも熱くて触れない。

温泉卵の殻を割るのにも時間がかかって、あっというまに八時前になった。

リビングダイニングを覗くと、もう葉月と飴矢かいる。急いでナスの皮をむき、削り節と青ネギを載せて醤油をかけた。

それから素麺を茹でて冷水にさらし、ガラスの器に盛った。その上にオクラとミョウガと温泉卵を乗せ、麺つゆをかけた。キュウリの浅漬けは市販品だから小皿に盛るだけだが、リビングダイニングに料理を運んだときには八時をまわっていた。

飴矢「おっ、素麺に焼きナスか」

葉月「これは小鳥遊さんのアドバイス?」

和斗「いえ。僕が考えました。

葉月「すごいじゃん。料理に目覚めたみたいね。」

ふたりは早速食べ始めた。わくわくしながら感想を待っていると、飴矢が箸を止めていった。

飴矢「ふつうの素麺じゃなくて、オクラとミョウガと温玉ってチョイスはいいと思うよ。ただ、今朝は涼しいから、さっぱりしすぎかな。」

いわれてみれば、今朝は雲が多いせいか気温が低い。飴矢は暑がりなのに、リビングダイニングのエアコンの電源が入っていない。
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