ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

和斗は事務室を出ると。葉月と飴矢に向かっていった。

和斗「ええと、今日からご宿泊になる胡桃沢さんです。」

ふたりは会釈したが、胡桃沢という男はうつむき加減で軽く一礼した。

和斗は胡桃沢と一緒に二階へ上がった。客室は五部屋しかないから、部屋番号は一から五までとシンプルだ。

葉月が一番、飴矢が二番、悠が三番に泊まっている。胡桃沢を四番の部屋に案内してから館内の説明をした。胡桃沢はそのあいだもおどおどして落ち着きがなかった。

和斗がリビングダイニングに戻ると

飴矢「また変わった人が来たね。観光客には見えないな。」

葉月「確かにここに泊まってる人は私を含めてみんな変わってるけど。」

和斗「胡桃沢さんは、素泊まりで食事はいらないそうです。」

葉月「ビジホならともかく、ペンションで素泊まりなんて珍しいよね。」

和斗「そうなんですけど……。でも、これで満室だから、皿井さんは悦ぶと思います。」

その夜は夕食の準備に加えて、居酒屋の営業も大忙しだった。

皿井が居ないだけでも大変なのに、ステラは近所の主婦ふたり連れて来て、釜石は木工所の後輩だという男と一緒だった。

ステラ「最近ここの料理、美味しいっていったら、皆が来たがるね」

釜石「うちの会社も俺が宣伝したら、皆来たがってる。けど、あんまり大人数じゃ飯が足りなくなりそうだからな。」

葉月が注文を聞いたり、料理を運んだりしてくれたおかげで、かろうじて接客できたが、一人だったらパニックに陥っていただろう。

和斗「ほんとにすみません。原稿で忙しいのに。」

料理を運ぶ間に詫びると、葉月は笑顔でかぶりを振った。

葉月「ぜんぜんオッケーよ。どうせ原稿は煮詰まってるから。」

悠のレシピで作った、牛筋カレーとカプレーゼだった。

牛筋は一キロで千円ちょっとと激安だったが、下ごしらえとあく抜きに時間がかかった。牛筋は、まず適当な大きさに切って流水で洗い、その後鍋で茹でて牛筋が浮かんできたらボウルにとって、もう一度洗う。

水が澄んで来たら牛筋をザルにあけ、再び鍋に入れる。そこに刻んだ玉ねぎとニンニクをたっぷりと、潰したショウガを入れ、具材がヒタヒタに浸るくらいの水を入れて火にかける。こまめにアクをとって湯が減ったら水を足し、三時間ほど煮込むと玉ねぎやニンニクは跡形もなく溶ける。

そのあと薄切りにした玉ねぎをフライパンで炒め、カレー粉、一味唐辛子、コショウ、トマトの水にを入れてしばらく煮込む。続いて牛筋とゆで汁を入れ、市販のカレールーを加える。

牛筋の味を殺さないよう、カレールーは控えめだ。最後に香りづけとして、もう一度カレー粉を足して、ひと煮立ちしたら完成だ。カレーはライスと一緒に持って福神漬けとラッキョウを添える。
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