ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

まかないを食べたあとすこし休憩してから、リネン室からシーツの替えをだして二階にあがり、客室の清掃にかかった。一番から順に清掃とベッドメイキングをして、三番の客室に入った。

泊まりのとき、悠が使っている部屋だ。ほとんど泊まらずに帰っていくため室内はほぼ使われていないので片付いていて清掃には時間がかからない。シーツ交換をしようとして掛け布団をどけたとき、メモ帳がコトンッと床へと落ちた。

忘れていったのかと拾い上げたらページの隙間から白いものがヒラリと落ちた。そちらも拾い上げると名刺だった。高級そうな和紙に筆文字で、【一之瀬組渉外部長瓦谷拳二】とあるのを見て、鼓動が早くなった。

和斗「これって……ヤクザの名刺!?」

思わず声が漏れた。

悠は雰囲気こそ怖いものの、いつも料理を教えてくれるから、普通の人だと思っていた。しかし反社会的な組織と関わりを持っていると知って落胆した。

ベッドメイキングを終えてから、メモ帳に名刺を差し込んで枕元に置いた。

憂鬱な気分で階段を下りると葉月はまだノートパソコンに向かっていた。

飴矢は外にいるのが暑くなったらしく、リビングダイニングにもどって麦茶を飲んでいる。悠と城はまだ帰っていない。

椅子に掛けて一休みして居たら、玄関のドアが開いて、見知らぬ男が入ってきた。男はぼさぼさの長髪で、日焼けした顔に無精ひげが伸びている。

和斗「いらっしゃいませ。あの、ご予約は?」

そう聞くと男はおどおどしながら言った。

「してません。でも泊まらせてもらえませんか?」

男はよれよれのジャケットとチノパンを着て、薄汚れた紙袋をさげている。

部屋はあとひとつ空いているが、予約もしてないうえに、みすぼらしい風格が気になった。

男はこちらの思いを察したのか、チノパンのポケットを探ると財布を広げて、何枚かの一万円札を見せて、ただの素泊まりでお願いしますといった。

朝食も夕食もいらないという。ペンションに泊まって食事をしないのは奇妙だが、宿泊代さえ払ってもらえば問題はないだろう。

和斗は事務室に入ると、フロント代わりのカウンターに宿泊名簿を出して、男に記帳を求めた。男は貴重を済ませ、三日分の宿泊代を払った。

宿泊者名簿を見ると、氏名は胡桃沢勉、年齢は46歳、職業の欄は未記入だった。

事務室をでしなに室内を見たら、奇妙なものが目についた。事務室の奥にはオーナールームがあるが、それとはべつにもうひとつのドアがあって、その前に書類の棚が置かれている。まるでドアの存在を隠したいような雰囲気で、その向こうに何があるのか気になった。
38/86ページ
スキ