ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

まぶたを開けると皿井が枕元に立っていて、こちらをのぞき込んでいた。和斗は寝ぼけまぶたを指でこすって、どうしたんですか?と聞いた。

皿井「義理の母から、さっき電話があったんだけど……」

皿井の妻が急病で倒れて病院に運ばれれたという。和斗は布団から半身を起こした。

和斗「それは心配ですね。大丈夫なんですか?」

皿井「わからない。いまから様子を見に行ってくる。」

和斗「えっ」

皿井「お客様には、きみから事情を話してもらえるかな。ひとりだと清掃やベッドメイキングが大変だと思うけど、よろしく頼む」

和斗「それはなんとかしますが、朝食と夕食は……」

皿井「小鳥遊さんが考えてくれるだろ。買い出しができるように車は置いてくよ。」

和斗「居酒屋の営業はどうしましょう」

皿井「やってくれると助かる。釣り銭は厨房に置いとくから。」

皿井はバスで駅まで行って、入院先の病院に向かうという。スマホで時刻を見たら、朝の六時だった。

なるべく早く帰るから頼んだよと言い残して皿井は部屋を出ていった。

妻が心配なのはわかるが、バイトの自分ひとりに仕事を押し付けるのは無責任な気がする。悠は、いままで料理のアドバイスをしてくれた。だからといって、こんなときまで頼れというのは甘えすぎだろう。

不満と不安で眠れなくなって一階に降りたら、皿井はもう出かけた後だった。さしあたっての問題は朝食だが、なにを作ったらいいのか。

悠はまだ来てないので自分で考えるかない。冷蔵庫には朝食用の食材がストックされていて、米と食パンもある。和風と洋風のどちらにするとか迷ったが、米を炊くのは時間がかかるから洋風に決めた。

食パンはトーストにするとして、他のメニューが難しい。悠に教わった粗びきソーセージや目玉焼きでは芸がない。飴矢に同じメニューだと馬鹿にされそうだし、どうせ作るなら葉月を喜ばせたい。

自分に持つくれそうな料理をスマホで探したが、なかなか決まらない。どれにしようか迷っている間に時間が経って、七時になっていた。

あと一時間で朝食だから焦っていたら、ツナと玉ねぎのポテトサラダとブナシメジのコンソメスープというレシピが目にとまった。幸い材料は揃っている。

ブナシメジのコンソメスープはブナシメジと玉ねぎをオリーブオイルで炒めてから、水とコンソメを加えて煮立たせるだけだから簡単だった。
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