ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

ウッドテラスは屋根があるから涼しいが、室内に比べたら暑い。

まもなく城がガラスのほっどと人数分のグラスを運んできた。ポットには麦茶が入っていて、ガラスに霜が降りている。続いて悠が運んできた皿には、白いおにぎりがたくさん盛ってある。

葉月「わあ、美味しそう」

葉月が歓喜の声を上げた。飴矢はすかさず麦茶のグラスに手を伸ばしたが、悠はまたもそれを制した。

悠「待て。いただきます、は?」

飴矢は噛み付きそうな顔で悠を見てから、しぶしぶ両手を合わせた。

飴矢「い、いただきますっ」

そう叫ぶなり、喉を鳴らして麦茶を飲み干した。

みんなも合掌すると、いただきますといってから麦茶を飲み始めた。麦茶は蟀谷が痛くなるほどキンキンに冷えていて、乾き切った喉に染みわたった。

続いて白いおにぎりを手づかみでひと口齧ったとたん、言葉を失った。

米の甘みと塩の旨味が口いっぱいに広がって唾液が溢れ出る。具は何も入っていないが、信じられないほど旨い。

おにぎりの皿には、ゆうべ悠にいわれて作った大根の浅漬けと梅干がついていた。大根の浅漬けを抓んでみると、薄切りの大根に塩昆布の味とゴマ油が沁みこんでいて、おにぎりとの相性は抜群だった。

梅干しは減塩ではなく、口がひん曲がるほど塩辛くて酸っぱい。けれども、おにぎりと一緒に食べたら、至福というべき味わいになる。

飴矢は陶酔したような表情でおにぎりに齧りついては、大根の浅漬けと梅干を交互に食べている。

葉月「ただのおにぎりと麦茶がこんなに美味しいなんて……。これが運動したあとだったら、たまんないでしょうね。」

悠はうなずいた。

悠「速やかな疲労回復には、おにぎりのような炭水化物が必要だ。さらに運動して汗をかいた身体には、水分はもちろん塩分を欲している。」

葉月「それで塩気があるものを美味しく感じるんですね。」

皿井「でも、このおにぎりは冷ご飯で作ったものとは思えないですね。」

悠「冷えたままの飯は米粒がくっついているから、おにぎりには向かない。これはレンジで軽く温めた飯をほぐしてから握った。塩は宮古島の地下海水から作った雪塩を使った。」

皿井「その塩はうちに置いてないですけど……」

皿井は首をかしげた。すると城がいった。

城「悠さんが梅干しと一緒に持ってきたんですよ。」

葉月「道理で、普通の梅干しじゃないと思いました。この大根の浅漬けも、悠さんが持ってきたんですか?」
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