ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

悠「ところで、ゆうべの飯はどうした?」

皿井「だいぶ余りましたから、処分するしか……」

悠「もったいないことをするな!まかないでも食べきれないなら客に出せ!」

皿井「し、しかし冷ご飯ですし、お客様に残り物を出すのは……」

悠「ここはランチがないから、昼は小腹がすく客も多いだろう。残り物でも金をとらなければ問題ない。それもサービスだ。」

皿井「わかりました。」

飴矢「僕は残りものなんか、いらないな。もっと旨いものが食いたい。」

悠「もっと旨いものが喰いたかったら身体を動かせ。」

飴矢「そんなこと言われても、この暑さじゃダルくて動けませんよ。」

悠「ダルくてあたりまえだ。エアコンの真下にじっとして、糖類の多いコーラを飲んでたら、じきに体調崩す。」

壁の振り子時計は一時をさしている。

和斗は皿井から買ってくる食材を聞いて、紙にメモした。今日の食材は近くのスーパーで間に合うから、車で五分しかかからない。

和斗「それじゃ、買いだしに行ってきます。」

悠「待て。アンタも一緒にいって来い。ただし車はなしだ。」

飴矢は丸い頬を膨らませた。

飴矢「車でも嫌なのに、歩くなんてとんでもないですよ。いちばん近いスーパーでも、無茶苦茶遠いじゃないですか。」

悠「そのかわり帰ってきたら、人生で一番旨いおにぎりを食わせてやる。」

飴矢「そんな大層なこと言って大丈夫ですか?もし、僕が旨くないって言ったら、どうします?」

悠「その場合は、どんな要求でも呑もう。」

城「えぇっ!?」

それを聞いて城が驚きの声を漏らした。和斗も葉月と顔を見合わせた。悠は平然とした表情だが、皿井はあっけにとられた表情だ。

飴矢「よーし、そのセリフ、忘れないでくださいね。じゃあ、僕も買いだしに行きます。」

和斗と飴矢はペンションを出ると、坂を下った。目的のスーパーは山の麓にある。飴矢は上機嫌で歩きながら笑った。

飴矢「いまから行くスーパー近い方だよね。」

和斗「ええ。車で五分です。」

飴矢「なら楽勝じゃん。小鳥遊さんに、何してもらおうかなあ。金いっぱい持ってそうだから、ミシュラン三つ星の店のディナー券を百件分とか」

和斗「それは酷すぎでしょう」

飴矢「だって、どんな要求でも呑むっていったじゃん」

車ではわずか五分でも。徒歩だとかなりの距離だ。飴矢と悠の賭けに付き合って炎天下を歩くのは迷惑だったが、人生で一番旨いおにぎりとやらを食べてみたかった。
20/86ページ
スキ