ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

飴矢がふいに声を上げた。

飴矢「ヒントって何?」

あ、喰いつきましたねー、と葉月は笑った。

葉月「たとえば、承認欲求です。」

飴矢「承認欲求がどうしたの?」

葉月「承認欲求って、他人からの評価を求めることでしょう。つまり自分を認めてくれたり、賛同してくれる人を求めてる。ブログやツイッター、フェイスブックやインスタグラム、要するにSNSをやってるひとの多くは「いいね!」が欲しいつまり承認欲求が目的だと思うんです。」

飴矢「僕は読者のために書いてる。」

葉月「自分の為でもあるでしょう。たくさんのひとにブログを読んでもらわなきゃ、貼り合いもないし。」

飴矢「そりゃそうだけど、そのために読者の機嫌をとったりしないよ。葉月さんもライターだから、そのくらいわかるだろ。」

葉月「ええ。私も媚びたくないですもん。」

飴矢「だからって、きついこと書いたら、すぐ炎上するからなあ。小鳥遊さんみたいに自分の価値観を押し付けてくる人もいるし。」

葉月「でも小鳥遊さんは料理をけなすだけじゃなくて、具体的に改善策を提案してるじゃないですか。」

飴矢「小鳥遊さんはでしゃばりすぎだよ。ブログの評価は客の視点で十分さ。だいたい、あのひとは……」

と飴矢が言いかけたとき、玄関のドアが開いて悠と城が入ってきた。飴矢は途端に口をつぐんで、室内の空気が重くなった。

葉月はそれを取り成すように悠たちに向かって

葉月「今日は早いんですね。」

するとちょうど皿井も厨房から出てきた。

皿井「あの、きょうの夕食は豚の生姜焼きにしようかと思うんですけど…」

葉月「わー、私大好き」

葉月が手を叩いた。僕も好きだけど、と飴矢が言って。

飴矢「どうせ悠さんにレシピ聞くんでしょ」

皿井「ま、まあ、そうです。」

皿井は頭をかいた。

悠「今日は夜に顔を出せないから料理に手は出せない。今から言うことをメモしてくれ。」

皿井「は、はい」

悠「まずタレの配合は醤油、みりん、酒と同量のケチャップを少々。そこにおろしたニンニクとショウガを混ぜる。ニンニクとショウガは一人前につき一片程度だ。そのあとフライパンにかるく油を引き、豚バラ肉と玉ねぎを中火で炒める。全体に火が通ったらタレを入れ、強火で炒める。具材にタレがなじんだら完成だ。」

皿井「ふむふむ、わかりました。」
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