ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

飴矢「油そばなら技術の差が少ない分、プロの味にも対抗できるな。」

飴矢は悔しそうな表情でいった。

餃子は最初に出したものと同じだが、酢とブラックペッパーのたれは普通の酢醤油よりも餃子の味を引きだしてる。千切りショウガと一緒に食べたら、さっぱりした味わいにどんどん箸が進む。

葉月は夕食を済ませたし、仕事が忙しそうなのに、また食べ始めた。

葉月「最近は餃子を酢とコショウで食べるのが流行ってるけど、ブラックペッパーとショウガの方がパンチがあっておいしい。」

あー肥えちゃう、と付け加えた。

冷奴はザーサイの塩気と青ネギの辛み、桜えびの香ばしさをゴマ油がまとめて、普通の絹ごし豆腐が中華風の味わいに進化した。

「このヒヤヤッコ、美味しい」

常連客の女性がそういった。最初の日にあった時から気になっていたがどうやら日本人ではないらしい言葉のアクセントに癖がある。

「お前に味わかんのか。フィリピンに豆腐ねぇだろ。」

もうひとりの常連客がそういった。どうやら女性はフィリピンからの留学生らしい。

「あるよ。タホっていうね。」

「タホ?」

悠「フィリピンではポピュラーな朝食だ。できたての熱い豆腐にサゴヤシから取れるサゴと黒蜜をかけ、ストローで食べる。朝になると、タホ屋の男たちがバケツをさげて路上で売り歩く。」

サゴはタピオカに似た食感らしい。

「おー、タカナシさん、よく知ってる。」

「さすが兄貴だぜ。料理のこたぁ何でも知ってる。」

悠「いやぁ……って、誰が兄貴だ。」

釜井「そういわず、この釜井、兄貴に感動いたしまして」

悠「だから勝手に弟分を名乗るな!」

悠は声を荒げた。釜井は全然引き下がらずだったが、トラブルにはならなかった。



浴室の掃除を終えて、リビングダイニングにもどった。飴矢は今日もエアコンの真下で、スマホ片手にコーラを飲んでいる。半袖のTシャツ一枚に短パンという格好だが、それでも暑いらしい。

葉月は未だに現行が進まないのか、ノートパソコンの前で腕組みをしている。和斗はそっと彼女の側によった。

和斗「どうですか調子は?」

葉月「まだだめ。和斗くんは自分探しってなんだと思う?」

和斗「えー、自分探しですか?よくわかりませんけど、本当の自分ってなんだろうとか、自分は何がやりたいんだろうとか……」

葉月「そういうことを考えるってこと?」

和斗「ええ。ぶっちゃけていえば、僕がここでバイト始めたのも、自分の将来じっくり考えてみたかったからだし」

葉月「私が取材した人達も、だいたい同じ意見だった。でも、そこからもうちょっと突っこみたいんだよね。」

和斗「どういう風に?」

葉月「ゆうべ小鳥遊さんと飴矢さんのやり取りを聞いてて。少しヒントが見えてきた気がするの」
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