ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

翌日は昨日にも増して気温が高かった。

館内はエアコンが効いているものの、清掃やベッドメイキングで走り回るから暑い。ペンションの玄関の周りやウッドテラスの掃除をしに外に出ると、午前中とは思えないほど強い日差しに全身が汗まみれになる。

ふだんは森から涼しい風が吹いてくるのに、今日は風もなく空気は淀んで、むわっとした草いきれが立ちこめている。

和斗は玄関先を箒ではいてから、庭に回った。目についた雑草をむしっていたら、スズメバチが頭上をかすめて肝を冷やした。山の中だけに虫の多さにはなれてきたが、蜂はやはり怖い。

掃除が終わってウッドテラスに面した窓を開けたとき、今度は大きなハエが飛んできて、室内に入りこんだ。

ハエは誰もいないリビングダイニングを一周してから、事務室に飛びこんだ。事務室はオーナールームを兼ねているせいか、皿井から掃除をしなくていいといわれている。けれどもハエをそのままにはできない。

洗面所から殺虫剤を持ってくると、事務室のドアノブに手を掛けた。

そのとき、皿井が階段を下りてきていった。

皿井「あ、そこは入らないで。」

いつになく尖った口調に和斗はとまどいつつ

和斗「でもハエが入ったんで…」

皿井「僕がやるからいいよ。外の掃除が終わったんならねお風呂の掃除をして。」

皿井に殺虫剤を渡して浴槽にいった。事務室は皿井の生活空間でもあるから、プライバシーに神経を遣っているのかもしれない。

もうすぐ昼とあって小腹が減ってきた。宿泊客に昼食は出さないから、賄もないが、残り物は勝手に食べていい。

昨晩は悠は泊まらずに帰ったので、朝食のアドバイスはもらえなかった。皿井は昨日に続いてトーストと目玉焼きとコールスローサラダを作り、ウインナーの代わりにハムを焼いた。

昨日と大差ないメニューだが、葉月は悦んで食べたし、飴矢も完食した。

飴矢「こういうメニューは飽きないな。下手に冒険して失敗するより、定番の方がいいよ。」

珍しく文句を言わなかったのは、悠と口論した影響があるかもしれない。

ゆうべ悠が作り直した料理は、またしても絶品だった。

醤油ラーメンは本格的な油そばに一変した。熱いうちに混ぜて食べると専門店に勝るとも劣らない旨さだった。悠によれば、マヨネーズやチーズを足したり、茹でたモヤシや天かすをトッピングしても旨いという。
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