ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【2】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

悠「っか、食べてばっかりじゃなかったんだろ?なんか珍しいものとか見なかったのか?」

学園は広い、おれなんか、まだ見たことも無いようなものが学園内にはたくさんある……らしい。

指を唇に当てて考え込む由佳里。

由佳里「珍しいものですか……?んー悠さんにはなにが珍しいんでしょうねぇ。あたし、けっこう学園内あちこち歩いちゃいましたから……」

悠「なるほど……由佳里にとっては、たいていどこも行ったことのある場所ってことか」

由佳里「そりゃ行くたびにちょっとずつ変わってますけどねー。看板がかけ変わってたり、新しい建物があったり。でも、まあなんとなくいつも通り、っていうか……あ、いつも通りといえば、また悪いやつがいて」

悠「悪いやつ?」

由佳里「光姫さまは、生徒を騙してあこぎな稼ぎを貪っていた悪徳商人、っていってましたけどー。またこらしめてあげちゃいましたー。で、そのときお礼にいただいたお菓子がですねえ……」

はな「わあ、結局そっちにいくんですね」

悠「待って、いまお茶を淹れるから、それからゆっくり……あれ?」

吉音「あぐ?」

悠「あぐ?じゃねぇよ。いまここにあったケーキはどうした」

吉音「……おいしかったよ?」

悠「うわ、過去形だ。おれもはなちゃんもまだ一口も食べてないのに…」

吉音「だってぇ、我慢できなかったんだもん~」

由佳里「可愛くいってもだめですよう。わたしもまだ食べてないのにー」

「お前さんは、お嬢といっしょにさんざ食ってたろうが」

由佳里「それは、それ。これはこれ、です。……って、うえええっ、ぎ、銀次さん。」

悠「わ、こら、由佳里。」

銀次「なんだよ、うっかり。そんなに驚くこたぁないだろ?」

由佳里「だってだってぇ」

おれの後ろに逃げ込んだ由佳里がすっかり怯えた様子で銀次に伝える。まあ確かに、いきなり耳元で話しかけられたら驚くのも無理はないが。

悠「それにしても、いつのまに現れたんだ。全然気配に気づかなかった。」

銀次「そこはそれ、企業秘密ってやつさ。で、うっかり」

由佳里「な、なんですかあ?うっかりって呼ばないでくださいー」

銀次は由佳里のことをうっかりと呼ぶ。ひとを普通に名前で呼ぼうとしない、銀次流のひねくれかただが、由佳里に関しては分からなくもない。

銀次「うっかりはうっかりさぁ。でな、うっかり、お前、お嬢との約束。すっかり忘れてるだろ。もう刻限は過ぎてるぜぇ」

由佳里「ああああっ。うっかりしてましたああっ。すみません、悠さん、はなさん、新さん。わたしいかなくちゃっ」

悠「いってら~」

はな「気を付けてです~」

吉音「ミッキーによろしくー」

銀次「だぁからうっかりだってんだ。なあ、悠の字」

悠「普通に名前で呼ぶ気は無いみたいだな」

銀次「いいじゃねえか。小鳥遊くぅん、なんて呼んだらオカマみてえだろ?俺はオカマじゃあねえからな」

悠「っか、なんでおれの方にすりよってくる」

銀次「オカマじゃないか、男が嫌いなんて、俺ぁは別にいってないぜぇ。どうだい、めくるめく午後の一時を…」

悠「断る!」

銀次「ちぇ。一度味わったら、離れられねえ味だって評判なんだけどなあ」

悠「光姫さんがなんでお前みたいな奴を部下にしてるのか、おれには解らん。」

銀次「そいつは俺も同感だ。まあ、それだけお嬢の懐が広ぇってことだろうなあ。見かけはちっこいが、なかなかの大人物だぜぇ」

吉音「ミッキーはなんかすごいよねぇ」

悠「うん、まあそれはその通りだけど」

銀次「さぁて、我輩もお役目の途中だ。またくるぜ」

はな「消えたです…」

悠「神出鬼没だな…」
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