ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

悠「まだある。葉脈に沿って切るとシャキシャキした食感、葉脈を断つように切るとやわらかい食感になる。切る方向を統一しないと、食感もばらける。」

皿井「そこまで考えていませんでした。」

悠「細く切る技術がないなら、葉脈を断つように切ったほうが口当たりがいい。」

いま説明したようにキャベツの葉と芯をわけると、千切りにした。

皿井「鮮やかぁー」

細くて幅の揃った千切りに、皿井が感嘆の声を上げた。

悠「切る方向で食感が変わるのは、玉ねぎも同じだ。なぜ玉ねぎを横に切った?」

皿井「横に切ったほうが断面が空気に触れる面積が大きくなるので、血液をサラサラにする成分が増えるって、テレビでやってたので……」

悠「玉ねぎは生で食べる場合は辛みや苦みが強くなる。加熱する場合は横に切ったほうが甘みが出るが、生で食べるには繊維に沿って縦に切ったほうがいい。それから……コールスローサラダには隠し味で砂糖を入れる。よく混ぜたら水気を絞り、皿などを重しにして、冷蔵庫で三十分ほど味をなじませるのがコツだ。レモンの絞り汁を入れると、さっぱりした味わいになる。」

皿井はメモを取ってたから、わかりました、といって

皿井「粗びきソーセージと目玉焼きは、なにがいけなかったんでしょう」

悠「粗びきソーセージは、沸騰した湯でボイルすると破裂する。裂け目から肉汁が流れ出てしまうし、たんぱく質が壊れて味が落ちる。適温は七十五度だ。」

和斗「いわれてみれば……」

皿井がボイルした粗びきソーセージには裂け目がある。

悠「湯の温度を測るのが確実だが、簡単な方法がある。湯が沸騰したら火を止めて、冷蔵庫から出した粗びきソーセージを入れて十分放置すればいい。ソーセージが冷たいから、湯の温度が下がって適温になる。」

皿井「すごい。今日から今の方法でやってみます。」

悠「ただのボイルソーセージならそれでいいが、仕上げに焼いた方がうまい。」

皿井「ボイルした上に焼くんですか?」

悠「フライパンに少し油を引き、ゆで上がったソーセージを焼く。軽く焼き色がついたら完成だ。客の好みに合わせられるようにケチャップはじかにかけずに皿に添える。マスタードやマヨネーズもあったほうがいい。」

皿井「なるほどぉ…」

和斗「ゴクッ……想像しただけで生唾が湧いちゃいました。」

悠はバターをふたつ小皿に入れると、レンジで加熱して柔らかく溶かした。そのあと皿井に向かって霧吹きがあるかと聞いた。
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