ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

皿井「す、すごい……!」

悠「いいから持っていけ」

城も手伝って、料理はすぐに運び終わった。

みんなはさっきと一変した料理を前にぽかんとしていたが、飴矢がナイフとフォークを手にするとステーキを一口食べた。

飴矢「旨い!切ったら湯気が出る。これがホントのミディアムレアだ。」

それを合図に、みんなは我に返ったように食べ始めた。

葉月「美味しいっ。皿井さんには悪いけど、さっきとは全然違うわ。」

「アメージング。うまいよ、コレ。びっくり。」

「すげぇな。同じ肉とは思えねぇ。」

悠「ふー…アンタ達のぶんは厨房にあるから、食ってみな。」

皿井は頭を下げると、いそいそと厨房に向かった。

和斗「な、なにか注文があったら、呼んでください。」

和斗も急いで厨房に入ると、まずステーキを食べた。表面は濃い焼き色がついているのに内側は淡いピンクで、グラデーションが美しい。飴矢がいった通り、切ったら湯気が出る。

肉の表面には粗びきのブラックペッパーがかかっていて、スパイシーな香りとともに爽やかな辛みがある。味付けは塩だけだが、それがかえって肉本来の美味しさを引き立てる。

トマトサラダはひんやりと冷たくて、これも塩味だ。けれども、ただ切っただけのトマトとはコクと旨味がまったく違う。さっぱりした大葉の味も加わって夏にぴったりのサラダだ。

コーンポタージュはとろけるようにまろやかで、歯ごたえのあるコーンの粒とクリーミーな味わいがステーキにあう。

ガーリックライスはニンニクと玉ねぎがたっぷり入って、食欲をかき立てる。米粒は熱々で、わずかに焦げた醤油の香りとバターの旨味が絶品だった。つい仕事を忘れて、あっという間にたいらげた。皿井も全ての皿を空にして放心している。ふたりでリビングダイニングにもどると、みんなもちょうど料理を食べ終えたところだ。

皿井は悠の側に行くと、丁寧に礼を言った。

皿井「ほんとうに美味しかったです。同じ食材を使ったのに、こんなに違うなんて……どうすれば、あんな短時間で美味しくできるんでしょう」

悠「引きだしだ。」

皿井「引きだしというと?」

悠「どれだけ知識があるか、どれだけ場数を踏んだかってことだ。」

皿井「やっぱり経験ですよね。僕は料理について、あまり知識も経験もありませんから……」

悠「それでも、旨いマズいはわかるだろ」

皿井「はい」

悠「最初のステーキは焼きが甘かった。」

皿井「厚めの肉なんで、じっくり焼いたんですが……」

悠「いくらじっくり焼いても、肉の表面にメイラード反応を起こさなければ意味がない」
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