ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【8】

ー大江戸学園:林内ペンションー

皿井「もっと勉強しますんで、かんべんしてください」

飴矢「そんなに気にしなくていいよ。ぼくはめったに褒めないんだから」

あははと笑う飴矢に皿井はため息をついた。

皿井「きょうのステーキはいけると思ったんだけどなぁ。葉月さんはどうですか?」

宿泊の女性は葉月というらしい。

葉月「んー、なんていうか、ふうつに美味しいですよ。」

そういうわりにはステーキは大半が残っている。

「私はまあまあかな。」

近所からきているらしい女性客はそういった。飴矢が鼻を鳴らす。

飴矢「みんな本音で喋らないなぁ。マズい物をマズいといって、何が悪いの。」

「おい、兄ちゃん、文句ばっかり言うんじゃねぇ。そんなに旨いものが食いたきゃ、クソ高い店に行きな」

「そうよ。皿井さん、いじめたら、かわいそう」

飴矢「はいはい、僕が悪かったでいいですよ。でも食べ残すのは自由でしょ。僕はもう二階に行くよ。」

一連のやり取りにしょうがなくおれが口を挟んだ。

悠「待て。この料理は確かに物足りない。」

今まで端の方でだまっていた男が口を開いたことにあたりが静まり返った。

皿井「す、すいません。」

悠「謝る必要はない。だけど、このままじゃ食材が惜しい。」

皿井「じゃ、じゃあ、どうすれば……」

悠「テーブルの料理を全部片付けろ。」

皿井「えっ」

悠「いったん厨房に下げるだけだ。どれが誰の皿か覚えておけ。城、お前も運ぶの手伝ってやれ。」

城「は、はい。」

皿井「わ、わかりました。」

悠「厨房借りるぞ。」

吉音「みんな、ちょっと待ってねー。」

優雅その場を離れると残った吉音が愛想よく場を和ませる。

みんなの料理を下げた後、和斗と皿井はならんで厨房の前に立っていた。ここからだと悠の背中しか見えないが、流れるような動きで料理をしている。初めて入った厨房とは思えないほど、手際がいい。

料理を下げて十五分ほど経った頃

悠「できたぞ。持っていけ。」

おずおずと厨房に入ったとたん、二人は目を見張った。

最初のメニューはステーキ、トマトとコーン、コンソメスープ、ライスだったが、さっきのメニューと同じなのはステーキだけで、料理が一変している。

トマトは大葉を散らしたサラダになり、コンソメスープのかわりにコーンポタージュがある。ライスはみじん切りのニンニクが入ったガーリックライスだ。

ステーキも皿井が焼いたのと違って香ばしい匂いが立ち上り、全体に焼き色がついている。別皿のニンニク醤油はなく、ステーキを持った皿の隅に塩があるだけだ。
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