ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【2】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

由佳里「こーんにーちはー」

おれとはなちゃんが小鳥遊堂の開店準備をしていると、由佳里がやってきた。

吉音「あ、ゆかりーん。いらっしゃーい」

はな「いらっしゃいませです。いまお店あけますからその辺に座っててくださいです」

由佳里「はいはーい」

悠「手になにか提げてるけどそれは?」

由佳里「おみやげですー。おいしいお菓子をもってきましたよう。お茶請けですー」

吉音「わーい。お菓子、お菓子!」

悠「うちは茶屋やってるんだけどなあ…」

まぁ、由佳里に悪気が無いのはわかってる。おいしいものを独り占めにせずみんなで食べたいと思っているのだ。基本的にひとがいいのである。

ただ、由佳里がこういうおみやげを持ってくるときには、かならず「おいしい」と断定で持ってくる。まず「おいしそうな」なんて予想混じりの表現は使わない。なんでか。およそ学園内に出回っているお菓子、スイーツの類で、由佳里がその味を知らないものはほとんどないからだ。

あるとしても、出たばかりの新製品くらいだろう。それだって二日もしないで由佳里脳に記録される。もともと記憶力はいい方らしいのだが、ことお菓子類に関しては「人間離れしている」のだとか。

これは光姫さんから聞いた話だ。

悠「ところで、これ、見たことないな。」

由佳里がテーブルに広げたおみやげは、小さなガラスの器に入ったケーキみたいなお菓子だった。

由佳里「このへんじゃちょっと扱ってないですねー。北の方は、最近こういうカップケーキみたいなスイーツが流行ってるんですよ」

はな「焼き菓子みたいですけど、この器のまま焼いたんでしょうか。耐熱ガラスなは見えないですけど…」

悠「器に詰めた生地を蒸気かなんかで焼いたんじゃないか?」

由佳里「さっすが、悠さんですねー。正解ですー」

吉音「蒸気?あのヤカンからぴゅーっつやつ?」

由佳里「ですです。ふわっとしてるんだけど、さくさく感もあって、美味しいですよ」

悠「ってこたぁ、またミッキ…もとい、光姫さんと?」

由佳里「はいっ。いっぱい食べてきましたー。ケーキは27種類、生菓子系は31種類、それ以外の焼き菓子が26種類…」

悠「……一日どれくらい食ってるんだよ。すごいな」

由佳里「たいしたことないですよー。朝のおやつに、朝食後の後のデザート、お昼のおやつに、午後のお茶菓子…」

悠「おいおい、いったい一日にどれだけおやつ食ってるんだよ…。ミハイル並みだぞ」

由佳里「どれも美味しかったですけど、ちょっと珍しかったのは10年もののケーキですね」

悠「10年もの…。10年前に作ったってことか。」

由佳里「そうなんですよ!砂糖たっぷりで固く焼いたケーキは何年も保つって聞いたことはありましたけどー。本当に10年前に作ったケーキっていうのは初めて食べましたねー。美味しかったです。」

悠「ほー。ワインじゃあるまいし、ケーキでもそんなのがあるをだな。」

由佳里「寒くて、土地の痩せた地域ではそういう保存食が多いみたいですねー。」
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