ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【2】

ー路地裏ー

往水「……あー、お奉行さま?へい、あっしです。夜分に申し訳ないと思ったんですけど、例の奴、みつけました。ええ、それが何者かにやられてまして……へい、了解。第一発見者の方達と一緒にお待ちしています。」

中村さんは電話を切ると、おれたちに向き直る。

悠「……」

寅「……」

往水「といいわけですんで、すいませんけど、もうしばらくお付き合いをお願いしますよ」

寅「しゃーねぇか」

悠「……了解。」

往水「ん?なんです、そんな顔して」

悠「いや…まるで同心みたいだなぁと思って」

往水「はっはっはっ、小鳥遊さんも冗談がお好きですね」

悠「……」

冗談じゃなくて本気で思ったことなんだけど……まあ、べつにどうでもいいか。







ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

想「夜分にお疲れさまでした、中村さん。それに小鳥遊君と右京山君も」

往水「いえいえ、仕事ですから」

中村さんはひょいと肩をすくめて答える。

悠「おれもまあ、乗り掛かった船ですから」

寅「通りすがりだ」

おれは逢岡さんに連れられてきた町方数名に気絶したまま運ばれていく生徒へと目を転じる。

想「気になりますか?」

悠「まあ。さっき中村さんが電話で、例の奴とかいってましたから」

逢岡さんは納得したように頷くと、改めて話はじめた。

想「なるほど、倒れていたあの生徒は、私たちが恐喝の常習犯としてマークしていた相手なんです」

寅「恐喝?」

往水「カツアゲですよ、要するに」

黙っているのも暇なのか、中村さんが口を挟んでくる。

悠「それで?」

往水「ええ、カツアゲしてるらしいって噂だけで、被害者からの訴えはなかったんです」

寅「つまり…濡れ衣か?」

往水「いえいえ。どうやら、お上に訴えたら後が怖いぞって脅して黙らせていたみたいなんですよね」

想「ですから、現行犯で捕まえられるように、同心の方々にも気を付けてもらっていたのですが…」

往水「まさか、カツアゲの現行犯じゃなく、辻斬りの被害者になってるとは思いにもよりませんでしたねぇ」

想「……」

中村さんが愉快そうな仕草で肩をすくめたのに対して、逢岡さんは沈思黙孝という顔だ。

往水「あっ、アタシはちゃんと見廻りしてましたよっ」

勝手に慌てる中村さんに、逢岡さんの口元が緩む。

想「分かっています。疑わしい生徒をひとりひとり付きっきりで見張れるほど、人員に余裕はありませんからね」

往水「そうそう、アタシらはよく働いてますよ。まったく」

ここぞとばかりに自分の仕事振りをアピールするのに、おれも逢岡さんも苦笑を隠せなかった。だが、逢岡さんの口元に浮かんだ笑みは、そう長く続かない。

想「おそらく、仕打ち人の仕業でしょうね」

往水「背後から不意打ちズブリの手際からして、十中八九、そうでしょうねぇ」

二人はおれの知らない単語を口にして納得し合っている。
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