ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【7】

ー大江戸学園ー

夏の熱気を更に沸き上がらせるようなセミの鳴き声が響く路地。日中であるせいか人々はわずかな日陰に身を押しこむようにして行きかっている。

そんな中で一人の大男が柱に背を預けている男に声をかけた。

「よっ。おまっとさん。……ってなんやねんその格好。お前は「南国のホスト」かいっ。」

「そういうお前はラッパーかよ。」

【格闘王】大久保直也はブルマークのキャップにゴツイ金のネックレス、そしてSPEEDと印字された白い半袖シャツ。

【氷帝】氷川涼はワイドなサングラスに半袖のアロハシャツ、腕に巻かれているロレックスは太陽の光に反射して輝いている。

氷川「日本でお前に合ってるとなんか妙な感じがするよ。」

大久保「願流島かて日本やけどな。」

氷室「金田はやっぱりこれなかったか。」

大久保「親父さんの三周忌法要やて。別日に一人で行くらしいわ。……それにしてもまだまだ蒸すなぁ…もうじき夏も終わるのに、かなわんでホンマ。」

ぼやきながらしばらく歩いていると見慣れた背中を見つけた。【黒天白夜】摩耶も二人に気付いたらしく振り返った。

摩耶「あれ?」

大久保「おお、坊やないか。」

摩耶「大久保さん!えー……あ、氷川さんも!」

氷川「お前、一瞬考えただろ。」

大久保「島以来やんけワレ!怪我も治ったみたいやな。」

摩耶「おかげさまでね。本格的な鍛錬は来週から復帰するよ予定だよ。」

氷川「聞いたぜアダムが、日本に残ってるんだって?」

摩耶「そうそう!格闘技術を一から学んで、闘技仕合でリベンジするんだって。うちの師匠と猛特訓してるけど、喧嘩との違いにまだまだ苦労してるね。」

大久保「ほーん。ま、暮石はんが指導するならうまいこといくんちゃう?」

摩耶「そういえば、春男君が正式に超日本プロレスの門下生になったみたいだよ。蔵地さんと関林さんに交代でしごかれてるってぼやいてたよ。」

大久保「そういや、春男の義理の親父さん、クーデターの責任を追及されて社長を引退したそうやな。」

摩耶「みたいだね。春男君も気にしてたよ。養子縁組は解消したらしいけど、名前は河野春男のままでいくってさ。」

春男『……良い関係じゃなかったけど、いちじは親だったひとだからね。日本に連れて来てもらった恩もあるし……せめて、あの人からもらった名前は、大切にしようと思うんだ。』

摩耶「って、言ってたよ。」

大久保「はー…浪花節やなぁ………いや。浪花節はちゃうか。」

氷川「親子ってそんなもんなのかね?俺、親いねぇからわかんねぇや。」
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