ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【7】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

強くなりたい。最強になりたい。男なら誰しも一度は憧れる無敵の強さ。

ある歳の者は、プロレスがゴールデンタイムに放送されていて、毎週欠かさずに観ていたものだ。強靭なプロレスラーに憧れ、彼らのようになりたいと思った時もあった。

ある歳の者は、映画のアクションスターが本物の武術家としり、拳法を家を志て日夜鍛錬を始め、彼のようにヒーローになりたいと憧れた。

ある歳の者は、素手で瓦を割り、氷を砕き、針金を切断し、ビール瓶の腹を貫く空手家。人間の手がそれほどまで硬く鋭く変貌を遂げることに心を震わした。

強くなりたかった。理不尽な暴力に屈すること無い、「絶対粋な強さ」に渇望した。

しかし……「現実」を知る。大半の人間の武の道は、あっけなく途絶えてしまう。「夢」を叶えられなかった。

道を貫き通せる人間は、ほんの一握りだ。能力の不足、家庭の事情、健康問題、年齢、気力の喪失……様々な理由で、多くの人間は道半ばで諦めていく。

夢を失った者は、現実を生きる他なかった。そして、いつしか、かつての夢すら忘れてしまっている。

だが、「彼」は「彼ら」は決して諦めなかった。


顔を打たれた氷室薫はカウンターに悠の腹を打つ。直撃ながらも踏みとどまり殴り返す。限界の限界状態で足の止めての殴り合い。その極限の中でなお氷室は冷静に悠の拳を弾き、ローキックで魔槍でつけた傷口を弾く。思いだしたように開いた傷口から血が吹きだし体勢が崩れかけたが構わずに地面を踏みこんで拳を氷室に撃ち込んだ。

拳が歪に凹む、氷室は額で受けていた。当然、額が裂けて顔を更に赤く赤く染める。そして、お返しといわんばかりに氷室の拳が悠の胸に突き刺さるも、同時に悠の左手が伸びて氷室の後頭部を掴んだ。そして力任せに頭を振るう。ヘッドソバットだ!サーパインにも負けない最硬度を誇る頭突きを何度も何度も振り落とす。

裂けた額に更なる追撃、文字通り頭蓋骨で頭蓋骨を砕こうとするゴリ押し。二人の男の血が弾け散り互いの顔を染めていく、この猛撃には氷室も顔を歪めるが四度目の振り降ろしには腕を挟みこんで弾きずらし対応した。

腕を上げた結果、氷室は視覚が効く右半分を遮った。悠はそれを逃さず掴んでいた後頭部を離して脇があいてところに回し蹴りを放った。しかし、その男は読み切っていた。振り上げていた腕を落とし、肘と膝で蹴りを挟み捕え、逆に足を振るった結果がら空きになったボディに拳を叩きこんできた。

完全にカウンターで捉えられた悠の腹部に拳サイズの陥没ができた。そして膝をついてしまう。頭が下がったところに膝が飛んできた。間一髪、左腕を挟みこみ直撃は免れたものの威力は壮絶だった。腕から雷のような衝撃が脳天まで貫いていき意識を駆り取ろうとする。悠の身体は大きく後ろに吹き飛ぶも手足を無理やり地面にこすりつけて停止する。

飛びかけている意識の中、頭をあげると槍を…魔槍を放っている氷室の姿……。



迫りくる死を目の前にして…………男は、笑った。

破裂してもいい心臓を跳ね上げさせる。

千切れてもいい脳のリミッターをフル突破させる。

潰れてもいい関節のエアクッションを限界まで跳ねさせる。


心の臓腑を狙う魔槍を肩で受け捕え、その力を乗せて右拳を打ち放った!!!


「「「『『…………』』」」」

全ての人間が停止する、静まり返る闘技場に一つの叫び声が響いた。

「勝負ありィィィィッ!!!」
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