ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【2】

ー大江戸学園教室ー

翌日。朝学校に顔を出すと、輝が瓦版を配っていた。おれはそこまで興味はなかったのだが、吉音が嬉々として受けとり、目の前で広げている。

吉音「えっ~と「怪盗猫目、またしても北町奉行所を手玉に取る!」だって、詳しいこと、いろいろ書いてあるみたいだよ。あの役人さんが、やっぱり裏でいろいろ悪さしてたこととか」

悠「輝はどうやって、そういう情報を集めてくるんだ?」

吉音「さあ?」

由真「あ。今回も盗んだお金は、貧しい町人たちに分け与えたみたいだって書いてあるわよ。」

横から覗き込んでいた由真が、記事の一部を指差している。

悠「……」

由真「ほら。実際にお金を受け取った人たちからの感謝の言葉とかも載ってるわ」

悠「なんかもう、扱いが泥棒って感じじゃないよな、ここまでくると」

由真「伊達に義賊って呼ばれてるわけじゃないってコトよ」

悠「義賊ねぇ」

猫目という存在の善し悪しはともかく、町人たちに人気があることは確からしい。これじゃ、猫目を追いかけてる朱金たちも大変だろうと、密かに同情をしておくことにした。




ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

布団に入ってからも、昨夜のことが頭から離れずになかなか寝付けなかった。至近距離で対面した猫目、誰かに似ていた気がするのだが……。誰にだ?それが分かっていたら、寝れないほど悩んだりはしていない。いっこうに訪れない眠気と、去ってくれない悩みとで溜め息を吐かされていたその時だった。

「うぎゃあぁ!」

窓の向こうから確かに聞こえてきた男の悲鳴に、おれは飛び起きて、外に駆け出した。

おれは茶屋から少し行った路地裏を覗き込んで、目を凝らしてみる。次第に目がなれてくると、せせこましい暗闇のなかに蹲っている人影と立っている人影がみえた。

悠「おい、何してる?」

寅「悠…」

悠「寅?って…」

男子生徒A「うぅ…」

寅の足元には倒れて呻き声を漏らしている男子生徒。

寅「お前も悲鳴を聞いて来たのか」

悠「お前もってことはそっちもか」

寅「あぁ、野暮用を済ませて帰ってたらこれだ。」

悠「ふむ…とりあえずコイツを起こして…」

「おやぁ、そこに誰かいるんですか?」

悠「誰だ!」
寅「誰だ!」

おれと寅は声を揃えて振り返った。

往水「ありゃ、夜回りもたまには真面目にやるもんですねぇ。まさか、小鳥遊さんとお友達さんの辻斬り現場に出会しちまうなんて」

悠「中村さん……って、おれが辻斬り?おいおい、勘弁してくれよ」

寅「俺らはコイツの悲鳴を聞いて偶然居合わせたんだよ」

往水「すると、第一発見者ってことですか?」

悠「ああ。そうだ。っか、おれが辻斬りなんかするか」

往水「いやいや、普段は大人しいひとのほうが危ないってこともあるじゃないですか」

寅「コイツは普段も大人しくねぇよ」

悠「そうじゃねぇだろ…。っか、中村さん、本気でいってるんじゃないですよ…ね?」

往水「もちろん冗談ですって。だから、そんなに青筋立てないでくださいよ」

中村さんは軽薄そのものの表情で笑いながら、携帯を操作する。
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