ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【7】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

「なんだ……アレは……。」

そう呟いたのは加納アギトだ。注目していたのは自分を破った男、氷室薫だったが今興味の矛先にあるのは小鳥遊悠だった。

自分の【武】と【無形】をスイッチさせる闘い方と似ている。だが明らかに異なっている。

当然である。

【滅堂の牙】と称えられた、この男の武の才と暴の化身である無形はどちらも格武術のプロフェッショナル(超一流)レベルの完成度を誇り扱えている。対して小鳥遊悠は技術にムラが大きいのだ。

アギトがボクシングの使えば90%以上の完成度で扱うことができるとして

悠がボクシングを使えば50~80%と超一流はおろかセミプロレベルの幅が出てしまう。

ならばなぜ、そんな中途半端な完成度の技術で氷室薫に喰らいついていけるのか?それは……手札の数が異常だからである。

加納アギトは選択肢が多すぎる故のラグを失くすために【無形】を封印し最善手を即座に絞る【武】を使うことにした。そこから更に進化を経て【無形】←→【武】のライムラグオフスイッチができるまでになった。

進化の果てに手に入れたアギトとは悠は逆だった。もともと【小鳥遊流】というのは存在しない我流をそう命名しているだけ。悠の闘い方は基本的に言えば雑、そのばの思い付きで手札を投げていることが多い。勿論、時には狙って技を出すこともあるが、それに持っていくまではその場のノリと感覚だけで押しこんでいく。だからこそ厄介、だからこそ読み切れない。

今しがたの翠龍毒からの瞬もどきも恐らくできるだろうという感覚で出している。出たとこ勝負もいいところである。

つまるところ、悠はアギトの武と無形のスイッチングをひとまとめにして扱っているのだ。その結果、全てに100%を出すことができるアギトと最大でも80%までしか出せないがありとあらゆる手をどんなタイミングからでも無理やり使うことができる。

その似て非なる存在が旋風を巻きあげ闘技場を縦横無尽に駆け抜け、ついに止まった。それは真後ろ完全な背後からの攻撃だったが、氷室はそれに正確に対応した。悠の停止タイミングと同時に身体を半回転させ振り返り対面する……が、その眼に映ったのは正面ではなく背中だった。

これには流石の氷室も面食らった。しかし、すぐにその背中目掛け抜拳を抜こうとしたが、それよりも速く悠は動いていた。否、止まっていたわけではなかったのだ、全速力のスピードを一点に集中して地面を踏みつけ宙に舞い上がり半月を描く軌道で氷室の背後に着地し、背面取りを成功させた。
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