ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【7】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

摩利支天、仏教の守護神である天部の一柱で日天の眷属である。そして、別の意味も持つ、それは……陽炎。

日本では春の季語とされるが、気象条件から夏に多く見られる現象である。陽炎は実体がないので捉えられず、焼けず、濡らせず、傷付かない。隠形の身で、常に日天の前に疾行し、自在の通力を有すとされる。

小鳥遊悠の動きはまさにそれだった。夏ノ型の歩法を幾重にも組み合わせ寄り、離れ、霞み、現れる。

一段、より深く踏みだし直線に最大速度を叩きだす烈火で氷室に飛びこんでいく。

が、氷室は抜拳を薙ぎると悠の身体は打たれたボールのように横に弾け飛んでしまう。

悠「ッ……!!」

城「悠さん!!」

鬼状態での技を扱えるようになっても尚、氷室薫という「壁」は、とてつもなく高い。

飛び跳ねるように悠は立ち上がり足を止めている氷室に飛びかかる。細かな打撃でけん制しつつ鬼状態水燕の連打。

技はより鋭く、機敏に変化を遂げているが氷室の適応力も異常。ただの一発も直撃が入らない。抜拳で打撃を制す中、脚が振られた。悠の胸に魔槍(脚)が突き刺さる。

悠「ぐっ……!」

危ねぇッッ!正面から攻めすぎた!!

間一髪、後ろに飛び直撃は免れたものの爪先は胸の皮膚を突き裂き血の花が咲く。

大きく後ろに飛び下がった悠は着地と共に上半身を振り落とし、前へと飛び出す。

再び烈火による突貫……かと思った瞬間、氷室の目の前で側面へと曲がりこんだ。

【小鳥遊流:夏秋ノ型・畝焔(うねりほむら)】

鬼王山「トップスピードのまま軌道を変えやがった!!」

室淵「重心の傾きを利用したんだ!!!」

高速移動する物体が突然消え死角に回り込み襲いかかる。そんな無茶苦茶な現象に……氷室は正面を向いたまま抜斧(肘打ち)で悠の腹部を穿ち動きを停止させ、さらに裏拳で顔面を弾いた。

悠さん。貴方とは、もっと完璧な状態で闘いたかった。

完全に動きが止まった悠の方へ向き、抜拳を打ち込む。ビキッと硬いもの、アバラを砕いた手ごたえを感じる。

城「攻撃が当たりだした!!!!」

悠さんのスピードは変わっていない。と、いうことは……氷室さんが、悠さんの動きを見切りつつある!!

更なる追撃が悠を打った。しかし、その打撃は曲がり氷室の体勢が崩れた。

氷室「(柳か!!)」

何とか追撃を凌いだが悠は片膝をついてしまう。一瞬、二人の雄は停止したが一早く氷室は体勢を戻し、まだ立ちあがれない悠に攻撃を仕掛けた。

右抜拳、左抜拳、右抜拳、左抜拳、右抜斧、目の前の存在を破壊する兇撃。

悠「コヒュッ…」

喉の奥から空気を漏らし後ろに押し退かられる悠。

……決めるつもりで撃った。五撃全て。秋ノ型で、衝撃を分散しましたか。

四季家の中では真桜さんとの付き合いが長い分、相当完成させていますね……恐るべし小鳥遊悠。
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