ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【7】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

最終仕合が始まる数分前のこと、選手登場口を目指して歩きながら悠は横に並ぶ城に話していた。

城「【鬼状態】を使う?」

悠「ああ。氷室さんは、おれの手の内を知ってる。勝つには【鬼状態】を使うしかない。」

城「ちょっ!ちょっと待ってください!私は反対です!鬼状態の影響で、悠さんの心臓はボロボロなんですよ!!自殺行為です!!」

悠「……大丈夫だ「多分」な。」

城「え?」

悠「前から薄々は気付いてたんだ。」

城「たぶんって…?」

夜見に封禁を掛けられて省エネ生活を送ってただろ。皮肉なもんでなそのおかけで初めて分かったこともある。

悠「正確にイメージできたのはさっきなんだけどな。お前と合流するまえに試してみたけど、なんとかなりそうだ。」

城「ほぼぶっつけ本番ってことですか!??」

封禁がほぼ解けたおかげで、鬼状態のコントロールが完全になった。今なら、出力の調整も自由自在だ。当然、出力を抑えるってことは力の上昇率もこれまで以下になる。

けどな、出力を下げれば、鬼状態で小鳥遊流を使った時の負担もグッと軽くなる。特に、筋肉を固める金剛ノ型は、鬼状態との相性は最悪だった。最悪、血管が弾けちまうからな。

けど、今なら使えるぜ。



鬼状態での金剛ノ型・鉄砕を氷室の胸へとぶつける。勿論、ガードはされてしまうがその上からでも今までの打撃とは段違いの衝撃をぶつけることができた。

「行け氷室ーーー!!」
「勝て悠----!!」

「「「ウオオォォォォォォッ!」」」

悠の反撃返しに観客たちは声を上げる。

選手登場口から仕合を眺める城は両手を握りしめた。

……多分これが悠さんにとって最後の仕合……勝ってください、悠さん。

鬼状態を維持し水燕を打ち放つ悠の勢いに前へと踏みこんでいた氷室は足を止めた。ほとんどの打撃をいなし弾き落とすが、鉄砕(蹴り)を打ちこまれると地面を削りながら押し退かされる。

そして、距離が少しでも開けば【瞬鉄砕】加速状態からの一撃を敵へとぶち込んだ。防御されてもかまわない、それごと打ち壊すという勢い。

やはり……強い。本当にすばらしい。滾る。滾りますよ。

砕け折れている氷室の右手が鞘の中で拳に変わる。

鞘香『再び撃ち合う両者だアアアアッ!!!』

ジェリー『まだクリーンヒットはありまセーンッッ!!!』

何度目かになるラッシュとラッシュの打ち込み合い。氷室は右の抜拳を抜いた。黒紫色に染まった拳が……目の前で止まったかと思うと突如軌道が大きく可変し右肘【抜斧】が悠の顔面を打ち割った。

鞘香『右肘の打ち下し!!これは効いたか!!!』

首が横を向き停止する悠に左の掌底が襲う……っが、捉えたのは幻、【幽歩】重心を前に残しつつ後ろに跳ね飛んで避けた。

一進一退の極限の攻防。その仕合内容を治療を終えた加納アギトが立見席から見降ろしていた。

アギト「……違う。」

小鳥遊悠の使う十神将の技は俺の知る「十神将の技」とは違う。

鬼状態+夏喜ノ型の歩法、火走、幽歩、縮地を駆使し四方八方へ移動しながら氷室を打ち捉える。

いけるぜ。

出力を抑えれば、記憶の混濁も起こらねぇ。力に振り回されて、精密な動きを失くすこともねぇ。

全ての技を制限なく使える。

今、この瞬間に小鳥遊悠は「三つの小鳥遊流」を、我がものにした。
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