ｰ絶命闘技会ドーム:闘技場ｰ

鬼状態でのラッシュ。手数もスピードもさらに増したはずだが氷室はそれをすべて弾きいなす。

数人分の席を占拠して座りこんでいる魏雷庵の顔つきが変わる。

阿保がッ!!何やってやがる。俺と闘った時のそれはそんなもんじゃなかっただろうがッ!!

ジェリー『当たったノハ最初の技と膝蹴りダケ。後の攻撃は全部防がレテマース!』

鞘香『なッッ!!?なんということでしょう!!!悠選手、決死の滅多打ちその全てが、氷室選手に撃墜されている。』

しばし続いたラッシュと打ち落としのぶつかり合いに変化が生じたのに闘技者たちは一早く気がついた。

押し込まれていた氷室が……前へと出たのだ。

「「「「「「!!!!!」」」」」」

鞘香『あッ!!!あああッッ!!!前進している!!!打撃の嵐を意に介さず、氷室薫が前進している!!!その姿は、重装歩兵を訪仏させます!!!』

更に一歩踏みこむと氷室は守りの抜拳から、攻へと転じた。負けじと打ち返していく。二つの打撃の嵐がぶつかり合う!!

氷室「……」

鬼状態によって速さは増した。ですが、鬼状態の「欠点」動きの精密性は大きく低下した。

すなわち鬼状態では、小鳥遊流の技を自在に使うことができなくなる。

そこを突く。

打撃の嵐を突き抜け掌底が悠の顎を打ち抜いた。

闘いの基本、そして根底、体勢を崩した後に必殺。満を持して氷室は左の魔槍を抜いた。

鞘香『掌底直撃!!魔槍がくる!!!』

悠の顔面を氷室の手刀が貫いた……ように見えた。しかし、それは残像。弧を描き、氷室の側面に回り込んでおり、横っ面に拳を叩きこんだ。

【小鳥遊流夏ノ型:幽歩】

氷室「ぐっ……!!」

鞘香『あッッ!!!当たったァーーッッ!!!!』

魔槍にカウンターを叩きこんだ悠は後ろに飛ぶ、しかし、氷室はそれを逃さなかった。正面を陣取り逃げる悠を追う。

が、「後ろに飛び下がっている」悠が「前へと飛びこんできて」いる。

氷室「何!!?」

悠「フゥッ!!」

踏みこみだそうとする氷室に一手早く踏みこんだ悠は鉄砕を打ち込む。普通ならば直撃……だが、氷室はそんな不安定な体勢からでも腕を縦てガードした。

観客たちが俄かに色めき立つ。

「なんだ今の動き!」

「バックステップしたはずなのにいつの間に前進した!?」

【小鳥遊流夏喜ノ型極:縮地】

筋肉に頼らず、「骨で立つ」ことを極意とする。重心の傾きによって移動するその歩法は、通常の動きとは明らかに「間」が異なる。

突如として間合いが伸縮したように錯覚する。仙術「縮地」から名を頂く歩法である。

悠「(よし、この感覚だ……!!)」

今のおれなら、小鳥遊流と鬼状態を同時に使える!!

なるほど……そいうことですか……。

氷室「やはり侮り難し、小鳥遊悠。」