ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【7】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

格闘家、武術家であるなら人が飛ぶということは日常茶飯事である。蹴り飛ばされる、殴り飛ばされる、投げ飛ばされる……。

空中に投げ上げられたままということはあり得ない。だが、今それが現実に起こっている。

鞘香『で、出たァーー!!小鳥遊選手の必殺技が炸裂ゥゥ!!氷室選手が高速のお手玉みたいに跳ね上げられているーーーー!!!』

ジェリー『オーノー!!悪い冗談としか思えねぇデース!!!』

氷室「(最初の一打を許すと一気にこれですか……。)」

激流に放り込まれたような感覚。やはりこれは…逆らって力づくで抜け出そうとすると…かえって「抵抗」が増して水の反発力が強まるように、力は逆に抜かないといけない……。

そして脱出の足掛かりも、またその激流の……激流の先端を掴めば……!!

人間一人をお手玉にするほどの力と技の激流が歪な音とともに停止する。そこから生まれた衝撃は闘技場全域に広がりビリビリと観客たちを打つ。

地面に立つ小鳥遊悠、空中で逆さまに停止する氷室薫。人智を超えた邂逅。しかし、それも一瞬、技を破られてしまったが、悠は最後の力で敵を投げ捨てる。

さらに高く投げ上がった氷室だったが空中で弧を描き着地する。

悠「おれの奈惰嶺を抜けやがった……「読み」に飛びぬけた奴ならではだな。まー予備知識があったってのもあるが」

鼻血を拭い去って氷室を見遣る。

氷室「ふぅ……なんとか間に合った。今のは流石に冷汗が出ましたよ。」

悠「っか汗だけで済んでるか?」

氷室「ふふっ。」

ほんの少し首にチクリとした痛みが走る。

ちょっと首をやられましたね、フラつく感覚もある。

空中で高機動でシェイクされる感覚、怪我よりムチ打ちの症状が出ているのは、それだけ身体に瞬間的「G」がかかっている。

しかし、問題は……ない。

氷室は両腕を鞘へと納め構えをとり、悠も即座に構え直した。

観客席で固唾を飲んで摩耶が口を開く。

摩耶「……今のを抜けられたのはマズいかもしれない。」

アダム「何言ってんだお前だって抜けたじゃねぇか。」

摩耶「抜けたといっても僕は折れている指に初めから狙いを定めていた、それに技の入りで潰せたからだよ。技に完全に入ってから抜けるのは……」

不可能……といいたいが、現に今、氷室薫は不可能を突破した。

恐らく、一番この事態に驚いているのは小鳥遊悠。ここまで隠していた限定的ではあるがノーモーションで発動できる居合い払い奈惰嶺。顔面への一撃を受け、開幕に大技をぶっぱなすという小鳥遊悠の覚悟を真っ正面から受け切られたのだ。
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