ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【7】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

最終仕合開始の宣言と同時にレフリー田城の腕が振り降ろされた。

田城「始めェェェェッ!!」

その瞬間、動きだしたのは小鳥遊悠。命を持った火が地を走るような歩法。

【小鳥遊流夏ノ型:火走】

因幡「いきなり出たでよ!!」

鞘香『出たッッ!!!小鳥遊選手の揺らめく歩法!!!不規則な動きで氷室選手を翻弄する!!』

氷室を中心に不規則な円を描きながら飛びこんだ。死角からの攻撃であるにもかかわらず氷室は腰を切り右の【抜斧】で攻撃を弾きあげる。

鞘香『!!?あっさり止めたァァ!!』

氷室「(いかなる歩法であろうと、間合いに入らなければ撃てないのが道理。)」

体躯を反らして敵を正面に捉える。悠は止められたことなど気にせず次のカード(攻め手)を切った。水燕による多元不定軌道のラッシュ!!これまでのものと見劣りしない、否、今まで以上に手数を増した超絶ラッシュの連打連打連打。削岩機をフル稼働しているような衝撃音が響く気渡る。

っが…………通らない。拳の硬さ、スピード、軌道、手数、どれを取っても超級の打撃を氷室薫は全て弾き、反らし、一打も受け損なわない。

氷川「…………ッ。」

クソッたれ!!アイツは、どこまで規格外なんだよッッッ!!!!!!!

鞘香『あっ!!!当たらないッ!!!???小鳥遊選手の鬼のラッシュが、ことごとく撃墜されていく!!!』

氷室「……」

拳に、力がない。やはり、余力は残っていませんか……。残念です。貴方とは、万全の状態で手合わせしたかった。

瞬間、防御に徹していた氷室の抜拳が悠のラッシュを裂き抜け顔面を打ち抜いた。

「「「!!!」」」

悠「がっ……!!」

直撃、顔のど真ん中に拳が突き刺さる。しかし、それに気がついた口角が上がっている。たった今殴られた男は笑ったのだ。

氷室「!?」

違和感が走る。触れられている。顔面を捉えている腕に悠の手が添えられている。握るでも、掴むでもない、触れらているだけだ。瞬間……氷室の身体が空へと浮き上げられた。

悠「お゛っ゛ら゛あぁぁぁぁぁっ!!」

鼻と口から血をまき散らしながら悠は咆哮する。重力を無視し、人間ひとりをお手玉のように投げ上げ全身の関節を崩壊させる必殺の技。

【小鳥遊流冬ノ型:居合い払い奈惰嶺】

冬花夜見が最も得意とする技。

だが、この技を使うためには【消える手】を前準備として必要としなくてはいけないのでは?

答えはNO。

本来この技の強みは身体のどこかに触れてさえいれば、どのタイミングからでも発動でき、どのタイミングからでも繋げられる事にある。発動してしまえば最初の一発から払いの連打によって相手を空中でお手玉のように振り回され、受け手は脳震盪とムチ打ちの症状に陥ってしまえ。

技の初動が読めず気がつけばお手玉、故に恐ろしい最凶の技と言える。だが、それはあくまで冬花夜見の実力あってこその凶技。

小鳥遊悠のレベルでは奈惰嶺に入るには消える腕の振りが必要……なはずだった。それは正しい夜見のようにどんなタイミングからでもは実際に出すことはできない。だが、ある間合い、そして敵の技後の隙、かつこちらの手が関節部位に触れることができたならば……撃つことが可能であった。

かなり限定的で最悪致命的なダメージを受けるかもしれない本来ならばこの局面では実行できない賭……それをこの男は初っ端から打って出た。
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