ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【7】
ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー
初見を葬るきっかけとなった超至近距離から放つ打撃、最小限の動作で最短距離を突く最速の打撃。
それ故、回避することはほぼ不可能。
加納は、この打撃を、【龍弾】と命名した。現在の加納アギトが持つ、「最大火力の一撃」。
人間から放たれたとは思えない轟音が破裂した。すべての人間が息をのむ……。静まり返る闘技場の中心、重なり合う二つの影……。
打ち出されたアギとの右手首を氷室は右手で取り掴み、左手で拳の先を押さえ壊していた。
【龍弾】不発(はじけず)。
加納は即座に左拳を横薙ぎ振るうが氷室は後ろに飛び下がって、それを避けた。
二人の男が離れあって全貌が観客たちの目にも映る。
加納の右手首は、鎌首を擡げた蛇のように力なくぶら下がり完全に破壊されていた。
右手首大菱形骨、同小菱形骨、同有頭骨、同有鈎骨、同舟状骨、同月状骨、同三角骨、同豆状骨、以上、手根骨全八本、複合骨折。
加納アギト、右腕を失う。
氷室「……認めましょう加納アギト。対等の宿敵として、貴方に引導を渡します。」
氷室薫は如何にして龍弾を制したのか?
答えは【小手返し】
寸勁の性質、動きの止まる一瞬を見逃さなかった。小手返しによって、龍弾の進行方向は、文字通り捻じ曲げられた。
当然、無傷では済まなかった。龍弾の威力を一手に受けた右拳。唯一無事だった親指も骨折……。
だが、折れた五指の筋肉を強制的に収縮させ、拳を作る。魔槍だけにあらず、抜拳は決して壊れない。
悠「(今の動き、包骨(ほうこつ)にそっくりだ!!)」
アギト「……」
憤怒、焦燥、絶望、加納が抱いた感情は、何れとも異なっていた。
報恩の為、戦い続けて160戦。幾度も強者と拳を交え、その度に「進化」し、勝利を掴んだ。そして現在、最大の壁が、加納を圧している。
本能が理解した。全ての闘いは、この瞬間の為にあった。
【我闘故我在】加納アギトが、「存在」を懸けて氷室を迎え撃つ。
つぶれた右手に構うことも怯むこともなく加納アギトは駆け出した。
氷室はそれを抜拳で撃つ。ガッガッと二度音が跳ねた。打ち出された抜拳をアギトは左手でつかみ取ったのだ。同時に序盤で受けた魔槍の傷から血が噴き出した。
氷室の一手を加納は読んでいた……が、本来の腕力とは、ほど遠く……振りほどかれる。
しかし、加納の次の一手も早かった右腕を引き抜く際に下がった上半身めがけ右膝蹴りを仕掛ける。
カチッ……と音がした。それを認識した瞬間、加納の顔面が顎下から打ち上げられた。
【抜(右弧)拳】
氷室もまた、「先」を読んでいた。
カウンターで顎を穿たれ跳ね上がったアギトの首を掴むと無理やり引き落とし、右膝蹴りを腹部に打ち込み返した。
ここにきて、ついに氷室も足技を解禁する。
身体が逆「く」の字に曲がるほどの衝撃。それでも踏みとどまり右腕を振るい自分の首をつかんでいる氷室を弾き飛ばそうとするが寸前のところで氷室は側面へと飛び退いた。
逃がすまいと加納は敵を追いかけるが、氷室の抜拳は一手早く顎を打ち抜き仰向けに倒されてしまう。
アギト「ガッ……!!……ッ!!」
氷室薫…!深手を負っていることを微塵も感じさせぬ動き、「武」を極めた人間とは、これほど凄まじいものか…!!
下段突きが顔面に落ちる。牙は首を振り、直撃を下げると同時に上半身の振りの力だけで立ち上がり左拳を握りしめる。
それがどうした!!?勝利こそが私の宿命!!!!!
【滅堂の牙】に敗北はないッッッ!!!!!!!!!!
天に浮かぶ三日月ように美麗、命を刈り取る死神の鎌のように鋭き一撃。
弧拳に続き、顎への二撃目。全体重を乗せたカウンターの【抜斧(ひじ打ち)】。
加納の動きが、止まった。
氷室「すっ……喝!!」
氷室が鋭く吠えた。拳を鞘(ポケット)へと一切の淀みも隙もない備えからの抜拳六連撃が加納アギトの正中線を打ち据える。
観客たちが俄かにざわめき出した。皆、口にはしないが心の中でひとつの思いが浮かびだしたのだ。
お……終わる!!!加納アギトの……【滅堂の牙】の伝説が終わるッッ!!
無防備の状態で人間の弱点たる部分を正確に撃ち抜かれた滅道の牙は……雄たけびをあげて左拳を氷室に打ち返した。
その反撃は氷室も想定外だったのだろう。驚きの表情を見せるがしっかりとガードはしていた。
アギト「うっ、おおぉぉぉぉっっっっ!!!」
脳を揺らされて尚、右腕を壊されて尚、帝王は死なず。【滅堂の牙】は止まらない。加納アギトは怯まない。
だが、「その瞬間」はついに訪れた。氷室は今まで以上に大きく、そして恐ろしさすら感じる速さで腰を切ると同時に左足で顎を刈り取った。
帝王の、滅道の牙の全身から力が抜け、崩れ落ちていく。消えゆく意識の中、その目に映るのはすでに構えを戻し、抜拳を抜き放つ男の姿。
氷室薫……いつの日か必ず、借りは返すぞ。
二つの巨星がぶつかり合い、一つが堕ちた。
より明るく、より激しく。
より強く輝いた、その星の名は…………
『勝者……氷室薫っ!!!』
「「「「「「オオオオオオォォォォオオオオオオオッ!!!」」」」」」
氷室「……闘技仕合の王よ。貴方もまた、真の強者でした。」
初見を葬るきっかけとなった超至近距離から放つ打撃、最小限の動作で最短距離を突く最速の打撃。
それ故、回避することはほぼ不可能。
加納は、この打撃を、【龍弾】と命名した。現在の加納アギトが持つ、「最大火力の一撃」。
人間から放たれたとは思えない轟音が破裂した。すべての人間が息をのむ……。静まり返る闘技場の中心、重なり合う二つの影……。
打ち出されたアギとの右手首を氷室は右手で取り掴み、左手で拳の先を押さえ壊していた。
【龍弾】不発(はじけず)。
加納は即座に左拳を横薙ぎ振るうが氷室は後ろに飛び下がって、それを避けた。
二人の男が離れあって全貌が観客たちの目にも映る。
加納の右手首は、鎌首を擡げた蛇のように力なくぶら下がり完全に破壊されていた。
右手首大菱形骨、同小菱形骨、同有頭骨、同有鈎骨、同舟状骨、同月状骨、同三角骨、同豆状骨、以上、手根骨全八本、複合骨折。
加納アギト、右腕を失う。
氷室「……認めましょう加納アギト。対等の宿敵として、貴方に引導を渡します。」
氷室薫は如何にして龍弾を制したのか?
答えは【小手返し】
寸勁の性質、動きの止まる一瞬を見逃さなかった。小手返しによって、龍弾の進行方向は、文字通り捻じ曲げられた。
当然、無傷では済まなかった。龍弾の威力を一手に受けた右拳。唯一無事だった親指も骨折……。
だが、折れた五指の筋肉を強制的に収縮させ、拳を作る。魔槍だけにあらず、抜拳は決して壊れない。
悠「(今の動き、包骨(ほうこつ)にそっくりだ!!)」
アギト「……」
憤怒、焦燥、絶望、加納が抱いた感情は、何れとも異なっていた。
報恩の為、戦い続けて160戦。幾度も強者と拳を交え、その度に「進化」し、勝利を掴んだ。そして現在、最大の壁が、加納を圧している。
本能が理解した。全ての闘いは、この瞬間の為にあった。
【我闘故我在】加納アギトが、「存在」を懸けて氷室を迎え撃つ。
つぶれた右手に構うことも怯むこともなく加納アギトは駆け出した。
氷室はそれを抜拳で撃つ。ガッガッと二度音が跳ねた。打ち出された抜拳をアギトは左手でつかみ取ったのだ。同時に序盤で受けた魔槍の傷から血が噴き出した。
氷室の一手を加納は読んでいた……が、本来の腕力とは、ほど遠く……振りほどかれる。
しかし、加納の次の一手も早かった右腕を引き抜く際に下がった上半身めがけ右膝蹴りを仕掛ける。
カチッ……と音がした。それを認識した瞬間、加納の顔面が顎下から打ち上げられた。
【抜(右弧)拳】
氷室もまた、「先」を読んでいた。
カウンターで顎を穿たれ跳ね上がったアギトの首を掴むと無理やり引き落とし、右膝蹴りを腹部に打ち込み返した。
ここにきて、ついに氷室も足技を解禁する。
身体が逆「く」の字に曲がるほどの衝撃。それでも踏みとどまり右腕を振るい自分の首をつかんでいる氷室を弾き飛ばそうとするが寸前のところで氷室は側面へと飛び退いた。
逃がすまいと加納は敵を追いかけるが、氷室の抜拳は一手早く顎を打ち抜き仰向けに倒されてしまう。
アギト「ガッ……!!……ッ!!」
氷室薫…!深手を負っていることを微塵も感じさせぬ動き、「武」を極めた人間とは、これほど凄まじいものか…!!
下段突きが顔面に落ちる。牙は首を振り、直撃を下げると同時に上半身の振りの力だけで立ち上がり左拳を握りしめる。
それがどうした!!?勝利こそが私の宿命!!!!!
【滅堂の牙】に敗北はないッッッ!!!!!!!!!!
天に浮かぶ三日月ように美麗、命を刈り取る死神の鎌のように鋭き一撃。
弧拳に続き、顎への二撃目。全体重を乗せたカウンターの【抜斧(ひじ打ち)】。
加納の動きが、止まった。
氷室「すっ……喝!!」
氷室が鋭く吠えた。拳を鞘(ポケット)へと一切の淀みも隙もない備えからの抜拳六連撃が加納アギトの正中線を打ち据える。
観客たちが俄かにざわめき出した。皆、口にはしないが心の中でひとつの思いが浮かびだしたのだ。
お……終わる!!!加納アギトの……【滅堂の牙】の伝説が終わるッッ!!
無防備の状態で人間の弱点たる部分を正確に撃ち抜かれた滅道の牙は……雄たけびをあげて左拳を氷室に打ち返した。
その反撃は氷室も想定外だったのだろう。驚きの表情を見せるがしっかりとガードはしていた。
アギト「うっ、おおぉぉぉぉっっっっ!!!」
脳を揺らされて尚、右腕を壊されて尚、帝王は死なず。【滅堂の牙】は止まらない。加納アギトは怯まない。
だが、「その瞬間」はついに訪れた。氷室は今まで以上に大きく、そして恐ろしさすら感じる速さで腰を切ると同時に左足で顎を刈り取った。
帝王の、滅道の牙の全身から力が抜け、崩れ落ちていく。消えゆく意識の中、その目に映るのはすでに構えを戻し、抜拳を抜き放つ男の姿。
氷室薫……いつの日か必ず、借りは返すぞ。
二つの巨星がぶつかり合い、一つが堕ちた。
より明るく、より激しく。
より強く輝いた、その星の名は…………
『勝者……氷室薫っ!!!』
「「「「「「オオオオオオォォォォオオオオオオオッ!!!」」」」」」
氷室「……闘技仕合の王よ。貴方もまた、真の強者でした。」