ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【7】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

顔面への肘が直撃したアギトは血をまき散らしながら体躯が大きく後ろに傾いた。そこに右抜拳の突きが腹部に直撃する。

右の抜拳……。

控室のモニターで仕合を見ていた悠が眉を顰めた。

悠「(折れた指で正拳突き!?)」

ポマード野郎は既に不壊もどきを使ってる。それでも防げねえ威力かよ。

追い込まれだした加納は距離を開けようと後ろへと下がるが、離れ際を逃さず、掌底で崩し……中高一本拳で打ち上げる。

足が止まったところで抜拳のラッシュを浴びせかける。

鞘香『うわああああッッッ!!!効いている効いている効いている!!!!まさかの滅多打ち!!!!加納アギトが明確に追い詰められているゥゥゥゥっ!!!』

氷室薫に敗れた百目鬼雲山が立見席で息を飲む。

……未熟を恥じるばかりだ。「強力な技を習得している」それだけではまるで不十分。

「使うべき瞬間に、使うべき技を使う」

あくまで理想に過ぎなかった武の極致を、氷室は現実に体現している。

戦局が動く、右掌底でかち上げ、満を持しての……魔槍!!

が、氷室の胸に鋭い痛みが走った。ミギギッと肋骨にひびの入った歪な音が響く。

モニターで観戦していた金剛が声を上げた。

金剛「なッッ!!?馬鹿な……!ここに来て、蹴りを解禁だと!!?」

さんざん撃たれ続け血と汗にまみれた牙の取った行動は蹴り。

それを見て、片原滅堂も思わず椅子から立ちあがった。鷹山と王森が声をそろえる。

「「御前!?」」

滅堂「……!!!アギト……主はまだ、「進化」するというのか……!?」

間一髪、更なる「進化」。

息も絶え絶えに顔中の至る所から血を流すアギトが動いた。

【武】

真上から真下に振り落とすような拳の一撃、氷室はそれを「ガード」した。

選手入場口で観戦している紅が声を漏らす。

紅「当たったッッ!!?あんな大振りがなんで!!?」

崇「ほぅ…ラグが消えたな。」

紅「え?」

殴り押し返した氷室に牙は更に攻め立てる。

氷室「……ッ。」

既に切り替わっている!!?

【無形】の攻撃……否、【武】のストレートが氷室の顔面を打つ!!ギリギリで抜拳を挟みこんでガードするも、それもろとも顔面に衝撃が襲う。

「武」←→「無形」のタイムラグの短縮。時間にして、コンマ数秒程度である。僅かコンマ数秒の差が、蹴り技の解禁を可能にした。

鉈を振り降ろしたようなローキックが氷室の足を弾く。

滅堂「フフフ……」

ワシの想像の上を行くか……これまでかと思ったが……まだ勝負は分からんぞ。

鞘香『これでこそ帝王!!!これでこそ牙!!!復讐の始まりだアアアアッーーーー!!』

有形にして無形。無形にして有形。満身創痍の末、手に入れた新たな力。

逆転に次ぐ逆転、ここまでのうっ憤を晴らすような猛攻で氷室を追い詰める。ほぼ紙一重でそれをガードし続ける氷室だったが上半身が下がった瞬間、膝蹴りが襲った。

アギト「!!」

直撃……かと思われた一撃が腕で抑え止められた。

鞘香『防いだッッ!!氷室選手が間合いを潰すッッ!!!!』

氷室「!!?」

刹那、氷室の目に映ったものは笑顔。獲物が罠にかかった、そう言わんばかりの不敵な笑みだった。
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