ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【2】

ー大江戸学園役人屋敷ー

役人生徒「おい、猫目はどうした!まさか逃がしたんじゃないだろうな!」

朱金「まだ外には出て来てねぇとよ」

役人生徒「だったら早く見つけろ!」

朱金「そんなこといわれなくても……」

朱金は苛立たしげに答えながら、詰め寄ってくる男から顔を逸らしている。いかにも殴りたそうに拳を握り締めてるな、朱金の奴。だが、相手は役人だし、今回の被害者ときては、そういうわけにもあかないんだろうな。しつこく詰め寄ってくる男を無視して、朱金は同心たちを振り返った。

朱金「まだ見つからねぇのか!」

???「はっ。いったいどこ探してんのよ?」

朱金「なにぃ!」

真留「遠山様!上です!」

真留の叫び声に、その場にいたみんなが一斉に顔を上に向けた。すると屋根の上にたつ人影が三つ…。

赤猫目「ホント張り合いないわよね、アンタたち。少しは学習しなさいよ」

黄猫目「まっ、おかげでボクたちは楽できるわけだけど」

青猫目「こーらっ。無駄口叩いてるんじゃないの。」

場違いとも思える会話が聞こえてきて、あっけに取られてしまう。朱金たち奉行所の面々に囲まれたこの状況で、なんて悠長な……。

悠「あれが怪盗猫目か」

吉音「悠、見るの初めて?」

悠「そりゃまあ、今まで機会がなかったし」

猫目たちの雰囲気につられたわけじゃないが、おれたちもずいぶん緊張感のない会話をしてる気がする。まあ、捕り物とはいえ、周りで見てるだけだしな。だが当事者たちは、そんなわけもなく……。

役人生徒「この泥棒猫が!盗んだ物を返しやがれ!」

それまで朱金に詰め寄っていた男が、今度は屋根の上に向かって叫んでいる。しかし猫目たちは慌てた様子もなく、悠然と男を見下ろしていた。

赤猫目「自分のコト棚に上げて、泥棒猫とはいってくれんじゃないの」

役人生徒「な……なんだと?」

黄猫目「自分のしてる悪さが、誰にもバレてないとでも思ってるわけ?」

青猫目「帳簿の改竄に賄賂……挙げていけばキリがないほど、いろいろ不正をしているらしいじゃないですか?」

役人生徒「くっ……」

赤猫目「そんな悪党に立派な刀なんか持たせてても、宝の持ち腐れもいいトコよ。だから、アンタの溜め込んだ汚いお金もろとも、私たちがもらっていくわね」

役人生徒「勝手なことを……おい!早くあいつらを捕まえろ!」

朱金が一瞬、迷うような表情を浮かべたのは、猫目が口にした話を気にしてのことだろう。だが、すぐに気持ちを切り替え、再び表情を鋭くした。

朱金「引っ捕らえろ!」

朱金が声を上げると、それまで固まっていた同心たちが動き出した。あらかじめ屋根の上に逃げることを想定していたらしく、用意してあったハシゴを壁に立て掛けていく。だが、同心たちがハシゴを上がるよりも、猫目たちの動きの方が早かった。
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