ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【7】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

無形状態での連打に次ぐ連打で氷室を押し潰していく。しかし、打撃と打撃の間に僅かに生まれる隙、針に糸を通すようなほんのわずかな隙に氷室は魔槍を刺し込んだ。

普通ならばまず狙えず、また逆に狙われたならば対処不能の一撃だった。

ボグオッッと鈍く歪な音が響く。

アギト「言ったはずだ。「全て使わせてもらう」と、な。」

絶対的なタイミングで放たれた氷室の攻撃を……牙は両手で掴み取った。更に左腕が肘から捩じり外した。

滅堂「なんと……」

この土壇場で、「進化」しよった。

蠱毒のたった一人の生き残りだったアギト。過酷過ぎる環境を勝ち抜いたアギトは、その精神を狂獣に支配されておった。アギトを保護したワシは、獣心が暴走せぬようあらゆる教育を施した。

結果、アギトは冷静沈着な頭脳を持つ戦闘機械となった。だが、完璧に獣心を押さえ込めておったわけではない。

時折見せるあの「貌」は、抑圧された本能が、歪んだ形で発露されたもの。「無形」とはいわば、暴走状態にすぎんかったわけじゃ。

じゃが、今は違う。アギトは、明確に「武」と「無形」を使いこなしておる。

「武」の正統派の攻めで押し、敵の隙をついた攻撃は「無形」で捌きカウンターで押し返す。

「武」と「無形」の混合戦法。それはまるで、タイプの異なる達人二人と交互に闘うような苛烈さ。

左肘脱臼。右手四指骨折。左右の「武器」を失った氷室。苦境に立たされる。

そして…………この局面において、加納はさらなる「進化」を遂げつつあった。

鋭いストレートがガードもろとも氷室を打つ!押し下げられるのを何とか踏ん張り、腕を振るい反撃しようとするがアギトは余裕を持って回避した。

無駄だ。両翼をもがれた今、貴様に打つ手は残されていない。

トドメに入ろうと腕を振るおうとしたアギトだったが、ズキンっと右手の甲に鋭い痛みが刺さった。

それに気を取られた一瞬、氷室の左抜拳が放たれる。頭を横に振ってソレを避けるアギト……。

……何?左腕が戻っている?……違う。この傷は左腕によるものではない。

外れていた左腕がハメ戻っているのは確かだが右手の甲にあいた穴は……。

瞬間、右の抜拳が抜き放たれる。牙は腕を縦てガード状態で後ろに飛び下がるとその目に映ったのは四指が折れているにも関わらず血濡れた親指一本。

右の甲に空いた穴は……親指による魔槍だと?

武器は折れず。氷室は死なず。
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