ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【7】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

変貌を遂げた……否、元のスタイルに戻したというべきか。牙は揺らめくように前進し、鞭を振るうように左腕で氷室を弾いた。

当然、ガードをするものの芯に響く一撃。

氷室「……ッ」

また戦法を変えた……いや、先ほどとはまるで別人ですね。

VIPルームで片原会長の背後で仕合を注視している親衛隊のひとり鷹山ミノルが叫んだ。

鷹山「阿呆がッ!!「無形」を使いやがった!!」

しかし、もう一人の親衛隊王森は別の見解を口にした。

王森「……悪くない。氷室薫とは、「武」の理の権化のような男だ、加納ですら、「武」で挑んでは後れを取る可能性がある。」

氷室のようなタイプには、「武」の理の外にある戦法……即ち「無形」の方が相性がいい。そう判断したからこそ、あえて封印した「無形」を解禁したのだろう。

規則的なラッシュから小鳥遊悠の使う飛燕のような多可変軌道のラッシュを浴びせかけるアギト。

だが、しかし、その連打にも既に対応しつつあった。超々高速の抜拳による弾き反らし。揺るがず氷室薫。

型がない分、先ほどまでより厄介……だけど、隙は見つけました。



全力で闘う加納アギトを見つめる片原滅堂は思いだしていた。それは二十三年前のこと……。

「もう少し掘り下げるぞ。」

「落石に気をつけろ。」

一見すると何もない荒地。重機を使い、大地を堀進めていく様子を滅堂と魏恵利央が見降ろしている。

恵利央「……こんな所まで人を呼び出して、何事かと思ったが……まさに鬼畜の所業じゃな。人で蠱毒を行うなど。」

滅堂「……」

【蠱毒】

古代中国で行われた呪術。百足を壺に封じ、「共食い」させる。最後に生き残った一匹が「蟲」となる。

恵利央「一体、どこの外道じゃ。こんな真似をする輩は?」

そのとき、現場がにわかにざわつき気配が変わった。黒服のひとりが叫ぶ。

「発見しました!!!入り口です!!!」

荒地の断層の中に現れたのは鋼鉄製の武骨な扉。シャベルを持った黒服たちが集まり、土塊や岩を退けていく。

「こじ開けるぞ!!!」

「警戒を怠るなっ!!!」

「もっっと人数を集めろ!!!」

漸く扉の開閉を邪魔している塊をどけ終わり数人がかりで鋼鉄のドアを開いた。淀み切った空気が漏れだす。真っ暗闇の中に外の光が差し込み中をのぞき込むと何人もの人間が息絶えていた。

恵利央「遅かったか。全員、死んでおる。蠱毒は失敗だったようじゃ。……滅堂!?生き残りが居るぞ!!」

死体が転がる闇の中の最奥で血と汗にまみれ極限状態ではあるが座りこんで呼吸をしている男が瞳を鈍く光らせていた。

それが、アギトとの出会いじゃった。
53/100ページ
スキ