ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【7】

ー絶命闘技会ドーム:小鳥遊製薬控室ー

ソファーにクッションを敷き詰め、金剛が横たわっている。鬼鏖で蹴り上げられた顎は幸いにも砕けてはいなかったが酷く腫れあがっており湿布と包帯が顎から左顔半分を覆い、目元には濡れタオルをかぶっている。

金剛「敗因は、「気づけなかった」こと、だ。」

悠の技の正体は、カウンター。それも、相手の攻撃力を倍加して返す極めて高度な代物。

そこまでしか気づけなかった。恐らくあの技は、特定の形を持たない代物なんだろう。そう考えればしっくりとくる。

一度目に受けた印象から、突きが来るものと思いこんじまった。結果がこのざまだ。

そばに立つ小鳥遊柏は静かに金剛の話に耳を傾けていた。

柏「……」

金剛「気がつかなければいけなかった。技の本質を見抜けなかった時点で、敗北は決まっていた。…………本音を言うとな、俺は、アンタに会長になってもらいたかった。色々と俺に目をかけてくれたアンタに、恩返しがしたかった。」

柏「……ふん、器じゃねぇよ。俺はな、商才というものがまるでない。会社っていうものを経営するには向かねぇ人間だ。……けどまぁ」

金剛「!」

柏「お前のお陰で大分儲けが出たし、闘技会でも十分に小鳥遊の名前に箔がついた。このまま引くのは面白くねぇよな。」

金剛「……そうそう。このまま終わりじゃ面白くないよな。」

身体を起こして柏の方へと身体を向けた。

柏「だよなぁ。よし、決まりだ。次はもっと本格的に、この闘技会を手中に収めていくぞ。」

金剛「……気遣い痛みいる。」

柏「あぁん?なんのことだ。俺は、ただ本気でこの闘技会を自分の物にすると決めただけだ。っーわけだ、金剛。お互い、このままじゃ終われねぇぞ。」

そう言って拳を突きつける、金剛はその拳に自分の拳をぶつけて返事をした。



松永工業控室では小鳥遊悠が全身にアイシングと骨に異常がきたしている腕などに包帯を巻き、可能な限りの治療を施されている。

痛み止めの注射を打ちながら英はじめが言った。

英「悠君、決勝まで横になっておくしいい。」

悠「……いい……このままで十分だ……。」

同室で控えている小鳥遊兜馬に秘書のミッシェルが声をかけた。

ミッシェル「よろしいんですか社長?本当にユウを続投させるつもりで?」

兜馬「……松永君の決定だ。決勝戦も悠で行くと。」

壁に持たれて休む悠。

英「……(凄まじいな)」

最後にはなった技の影響か、内部のダメージが目立つ。想像するに「自分の身体を「道」にして相手の力を返す技」……といったところか。今の悠君には、自殺行為ともいえる技だな。

かろうじて決勝には進めたが……加納と氷室。どちらも無傷ではないが、怪我の程度は遥かに軽い。どちらと闘うことになっても、待っているのは確実な敗北。そして死……。

それぐらいわかっているだろに。……それなのに…………。

悠「ふー……ははっ……あと一つ。」

理解できない。なぜこの状況で笑みが出る?勝算があるとでも?私の見る限り「もし」悠くんに勝機があるとするならば……次の仕合、加納と氷室が極限まで潰し合ってくれることを祈るしかない。

もっとも勝社が闘技者交代を行使すればそれまでだが……。

英「……やれやれ手のかかる患者だ。吉沢君、決勝までに出来る限りの処置をするよ。」

心美「はいっ!!」
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