ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【7】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

小さな声援を背中に受けて悠は飛び下がらずに前へと駆けだした。伸びてくる金剛の巨拳を避けながらフックに似た打撃を右斜め下から撃ち込むが、容易に掴み取られて防がれる。

悠「シィッ!」

しかし、それは想定済みだった。捕えられた右拳をグッと金剛の掌に押し付け、其処を支点に右足を振るった。鉄砕・蹴の直撃が横っ腹に突き刺さり、金剛の身体が傾く。

鞘香『直撃!!!内臓に響いたか!!?』

金剛「コオッ!!」

停止は一瞬、金剛は低く吠えると踏みこみ拳を放つ。

鞘香『い!!?いやッッ!!??効いていない!?!?』

捉えるのは拳ではなく、手首。着弾ギリギリで半身を翻し、金剛の太い手首に指を這わす。

【小鳥遊流:秋冬ノ型・柳】

金剛の巨腕が捩じれ極め、上半身が崩れていくが、踏みこんで技を力で阻止した。

鞘香『崩せない!!!否、崩れない!!!』

金剛「ヒュォッ!!」

吼えるように息を吐くと、かち上げ、蹴り、突き、猿背打ちと連続攻撃を仕掛ける。一発一発が必殺級、悠も歯を食いしばり全身を使って全ての攻撃を避け続ける。

鞘香『畳みかけるようにラッシュ&ラッシュ!!小鳥遊選手は絶対に貰いたくない!!!』

悠は必死で避け続けてはいるが僅かに拳や蹴りが掠った皮膚が裂け千切れ血に染まっっていく。

金田末吉はそれを見て背筋にゾッとしたものが走った。

紙一重だ!!!だけど、あの足じゃ捕まるのも時間の問題だ。三日月蹴りのダメージが抜けてきたみたいだから反撃の機会は今しかない。

この機を逃せば、次はない。

頭を潰さんと放たれる直突きを避け、距離を取ろうとした悠の動きが止まった。自分の顔の横を抜け伸びている巨腕の先、拳が解かれ、開かれた掌が悠の首の後ろを押さえたのだ。

金剛「おおぉぉっ!!」

悠ッッ!お前の無念は俺が引き継ぐ!!だから、もう倒れろ!!!

咆哮をあげた金剛は悠を自分の方へと引き込むと膝蹴りを胸へと穿ちこんだ。ビギィッと鈍い音ともに悠の身体が浮き上がる。

間一髪で右腕を刺し込み膝蹴りをガードしたが骨に深い亀裂が走り込む。さらに悠の着地と同時に金剛はがむしゃらに拳を打ち込む。

「うわああーーーッッ!!!これはヤバいって!!」
「ガードの上から効かされるぞ!!!」
「小鳥遊ィィィィィ!!逃げろ逃げろおぉォッッ!!!」

鞘香『まるで子供のケンカ!!私の知る金剛選手のスタイルではありませんッ!!!』

関林ジュンは呆気に取られなから金剛を見つめる。

そこまでか……!!お前ほどの男が、なりふり構わず闘わなきゃいけねぇほど、悠は強いってことか。

圧倒的に暴力的に徹底的に拳を小鳥遊悠へと叩きこむ。ガードされようがされまいがお構いなし、目の前の物体をぶち壊すという破壊の意思。

油断も慢心もしない!魏雷庵を、摩耶を倒したお前を、過小評価できるはずがない!!

渾身の力で、潰すッ!!!

金剛の左腕がボゴッと膨れ上がる。ガードを固めている悠、目掛け打ち放たれる究極の打撃。

【極撃】

最後、最後のチャンス。ここだ、ここしかない、悠はガードを下げる。歯を食いしばり、瞳から鼻から口から血をこぼし鬼の形相で顔をあげる。

「その技」の本質は、四季一周。

春、敵の動きを捉え、攻撃に備える。

夏、迫る攻撃に、最適な位置を取る。

秋、力を捉え、身体を通過する。

冬、自身の力と合わさり、より強力となった「力」は敵へと返される。

伸びてきた金剛の左拳が顔面寸前で……停止した。

未知の技(一度目の鬼鏖)への警戒が、金剛の攻めをより慎重にさせた。左拳はブラフ。本命は、上体を崩した後の右正拳。




衝撃と爆音。




静まり返る闘技場。




四季流において唯一、四季系統全ての要素を持ち、「鬼をも殺す」「死期を巡る」ことを意味する「その技」の名は…………

【小鳥遊流:四季ノ型奥義・鬼鏖(四季送り)】

跪き息を荒げる悠、そして遥か後方まで吹き飛び、仰向けに倒れる金剛。

氷室薫はゆっくりと一度目を閉じた。

見誤りましたね、金剛さん。

最後の動きを見るに、アレがカウンターであることは見抜いていたようですが。タイミングをずらし、温存していた右拳で仕留めにかかった。通常のカウンターへの対処としては、一つの正解。

ですが、アレは無形のカウンター。

スウェーでダメージを流し、後方に距離を取り、金剛の攻撃力をのせて顎に前蹴り……。

決まった型を持たないが故に、ありとあらゆる局面で繰り出すことが可能。技の性質を見切った私とてアレを防ぐことは容易ではない……形の無いものを相手取るのは厄介なこと。

逆に言えばアレの質は、使い手の質と直結する。瞬発力、決断力、想像力、創造力……小鳥遊悠、やはり貴方もまた、化生の類ですか……。




決まった。いくら金剛でもこれまでだ……。

そう思った瞬間、怪物がガバッと身体を起こした。悠も反射的に飛び起きた。

が……金剛は再び倒れてしまう。しかし、すぐに手をついて、身体を起き上がらせる。鮮血をまき散らせながら巨体を必死に立ちあがらせる。

誰に止められよう、男の歩みを。

勝利を求める男の闘志を、誰が消せよう。

真っすぐに進むことも限界、全身を震わせながら両腕を構えてヨタヨタと進んでくる。

悠「……もういいだろう、金剛」

金剛「……まだだ。俺はまだ、立ってるぜ?」

誰しもが見上げる巨躯を持ち、力の権化である漢が今はとても小さく感じる、見開れた目は恐らくもう何も捉えていないのだろう。

だが、それでもそれでも、金剛は前へ前へと踏みこみ近づいてくる。

悠は拳を固めた。

「……金剛、お前はホント、スゲェ奴だよ。」

「来いよ、勝つのは……俺だ……」





【蔵王権現】金剛、準決勝敗退
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