ｰ絶命闘技会ドーム:闘技場ｰ

間合いを詰めていた金剛の動きが止まる。座りこんでいた小鳥遊悠は中腰で陣取り構えをとった。

金剛「……」

何かを狙ってやがるな。この期に及んで尚……。

鞘香『小鳥遊選手動かない!!!さながら居合の構えのようだ。』

互いの距離は踏みこみ一歩分。動かぬ悠に、金剛は臆せず踏みこんでいく。地面を踏み砕き巨拳を打ち込んだ。

【春夏秋冬】

喰らえ!!金剛!!!

【小鳥遊流:四季奥義・鬼鏖】

ゴギャッとドームが揺れるほどの衝撃と爆音。観客たちも闘技者たちも静まり返る。選手入場口で仕合の様子を見ていた氷室薫の隣に加納アギトも並び立った。

闘技場では、悠が地面に倒れ伏せ血を吐きながら大きくせき込んでいる。

悠「ゲボッ、ゴホッカボゴホッ!」

金剛は……後方に吹き飛び尻餅をついていた。そして左肩がめり込んでいる……。

金剛「ッッ～～!!」

どういうことだ!!?俺の拳は直撃した。なぜ、まだ動ける!?のみならず、カウンターまで合わせてきやがった。

この威力……!余力を隠していたのか……小鳥遊悠、悠……やっぱり侮れねぇな。

悠「げほっ……!」

クソッ!タイミングがずれたか!!力を返し切れなかった!!!気付かれたか!?鬼鏖のカラクリに。

否、金剛は、鬼鏖の解明には至っていなかった。未知な寝技への警戒が、攻めの手を止める。

だが、それも数瞬。

金剛は立ち上がると即構えを取りなおし、深く呼吸をする。左肩へのダメージは大いが甚大ではない。十分に動く。

金剛「コォォォォッ」

……何を隠してようと関係ない。最後に笑うのは、俺だ。

悠「ハァハァ……!!」

対して金剛の直突きを受けて明らかに甚大のダメージを負っている悠も立ちあがって構えをとった。

夜見のジジイの言葉を思いだす。

夜見『四季送り(鬼鏖)の本質は、ざっくりいうとカウンターだ。勿論、ただのカウンターじゃねえ。相手の攻撃の威力をそっくり受け流すことも可能じゃ。』

悠『秋ノ型の「絡」とは違うのか?』

夜見『まったく違う「絡」は力の進行方向を変えているだけだ。鬼鏖は、もっと難解だぜ。』

例えばこんな感じだ。

春、向かい来る力に備える。

夏、ポジショニングを確保。

秋、脱力した身体に威力を素通りさせ。

冬、受け流した威力を敵に返す。

自分の力をプラスすることでねさらに威力の高い攻撃となる。

……と、これが「基本」だ。

相手がどんな攻撃をしてくるかわからねぇからな。状況に応じて四季送りは形を変える。ゆえに春から始まり夏、秋、冬と繋げるカウンターは、全て四季送りと呼ぶ。

四季系統をすべてといったが、重要度が特に高いのは、

悠『春と秋だな』

夜見『その通り』

まずは春、備えきれず、力を流す方向をミスちまったらそれまでだ。

そして秋、完全に脱力ができてねえと威力が流し切れん。身体は加速装置にも減速装置にもなる。相手に返す攻撃の威力を上乗せしたり、逆に加減したりするのは秋の役割だ。