ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【7】

ー絶命闘技会ドーム:死の森付近ー

桐生刹那の剥きだしだった殺意が濃縮され禍々しさと鋭さを増し、色彩が変貌するのを感じ取った。森のざわめきや響いてく波の音すらも飲みこむほど異様で悍ましい煌めきを放っている。

悠は中段に構えていた腕を内側に引きこみ、守りの体勢へと移行した。

……【鬼状態】じゃねえ……。ナルシス中華(二階堂蓮)の仕合で見せた姿か……。

刹那は三つの三日月の様な笑みを浮かべ左手を上げた。

コイツ攻めてこない、おれが動くまで。刹那は右腕が使えない。勝機があるとしたら、カウンターを狙う他ないはず……。

悠が斜め横に一歩踏み出すと刹那も同じように一歩踏みだす。互いが互いから目を離さず、距離を詰めず、しかしそれ以上離れず、半円を描くように歩む。

悠が拳をほんのわずかに上げた瞬間、刹那が動いた。地面を蹴り飛ばし、一気に間合いを詰めてくる。

この行動に、悠は一瞬面食らった。先に動いた!!?と、しかし、身体はソレに対応していた。前蹴りで敵を打ち返しにかかった。完全なタイミングで捉えていたはずの刹那がズルリと歪み蹴りを避けた。

悠「!?」

そのまま一気に間合いを詰め、地面を支えている左足を払われる。為すすべなく空中に投げだされ、上段から地面を削岩せんばかりの羅刹掌が落ちた。悠は空中で無理やり上半身を捩じった、羅刹掌が脇腹スレスレを抉り抜けていく。背面から地面に落ちるが、その反動と背筋で無理やり跳ねあがっり立ちあがった。同時に擦れていった胸元から脇腹の服と皮膚が裂けて血がこぼれる。

刹那は落とした左腕を引き戻し悠を見つめた。

やはり、右腕は使えないらしい……。ならばと、今度は悠から攻めにでる。多動不定軌道の水燕には対応できないはず。間合いを詰め、水燕を仕掛けたが…………。

刹那「……」

拳は空を切り、刹那は【瞬】で側面へと回りこんできた。即座に腰を切って追従し、水燕の連射を止めはしない。

悠「ッ……!!」

この野郎!!!左手だけでついてきてやがる!!!スピードが速くなったわけでもねえのに、どうなってやがる!!!

怪しく輝く刹那の虹彩には……悠の動きがスローモーションで映っていた。

【タキサイキア現象】

危機に瀕したとき、風景がスローモーションに切り替わる現象を指す。その原理は、脳の処理速度が爆発的に高速化する為という説がある。この原理を用いたものが【降魔】である。

降魔を刹那自身の意思で発動させることは適わない。刹那が危機的状況に置かれた際、「脳のリミッター」が解除される。

一、二回戦で見せた【阿修羅】の正体こそが降魔である。短期間での連続使用によって、その「深度」は、より一層深まっていった。
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