ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【7】

ー絶命闘技会ドーム:死の森付近ー

桐生刹那は一瞬怒りに顔を歪ませたがすぐに美麗なすまし顔に戻り、掛けながら靴を脱ぎ棄てた。羅刹掌(脚)を蹴り放つ。

悠はしっかりと地面を踏みしめて腕を縦て不壊で全てをガードする。

無駄だよ悠君。不壊は万能じゃない。

腕より威力の強い足の羅刹掌なら(羅刹脚とでも名付けようか?)徐々にダメージは与えられる。

不壊は全身の筋肉を硬化させる技。繊細な力のコントロールを要する秋や冬ノ型との併用はできない。

そして、不壊を維持できる時間は限られている。不壊を解いた瞬間を、僕は見逃さない。……無駄なんだよ悠君。なぜわかってくれないかな?

羅刹掌と羅刹脚を隙なく悠へと打ちこんでいく。無数のドリルを突き立てられるような怒涛の攻撃に、その時(緩み)がきた。

宣言通り、不壊が溶ける瞬間を見逃さず。刹那は満を持して羅刹掌を打ち込もうとした。

【小鳥遊流:秋冬ノ型・水燕】

が、縦横無尽不定軌道の打撃が刹那の全身を打ち抜いた。

刹那「!!???」

な……!!??

想定外のカウンターに刹那の身体が体勢を崩し大きくグラついた。そこを逃がすまいと悠は右拳を固め鉄砕を打ち込んだ。

だが……刹那、不壊(と似た技)で追撃を凌ぐ。

ッ……なぜ僕より速い!!?速度ではわずかに僕が勝っているはず!!!悠君が速くなっているとでも……そういうことか!!

悠君!!君はまだ、元に戻っている途中だったんだね。君の成長には気付いていたのに、なぜ思い至らなかった?君の身体能力は数年前よりもはるかに上。当然、技の威力も……冬花夜見がほどこした呪い。「力の出力」を制限する全身の骨のわずかな僅かな歪みは、既に解消されていると思ったけど、まだ完全ではなかった。そんな状態にもかかわらず現状の出力制限の状態で全盛状態とほぼ同等にまで力を出していた。

そして今この時、自力で歪みを解消しさらなる成長しようとしている。

断言しよう。今の君は、1秒前の君よりずっと強い!!

水燕のラッシュを、羅刹掌のラッシュで拮抗する。

刹那が「真相」に気がついた頃、城厘は、「最悪の想定」に辿り着いていた。

な……なんで気付かなかった!??刹那さんに四季流(?)を教えたのは「あの人」と呼ばれた男。だけど、悠さんと似た技を使えるということは四季流だけではないのでは……つまり、刹那さんも「鬼状態」を使える可能性は、十分にあるってことだ!!

ラッシュとラッシュのぶつかり合いの最中、針の穴を通すような小さな隙に必殺の羅刹掌をねじり込む、しかし、空気を捻じりながら伸びる腕があらぬ方向へ逸れていく、何が起こったのか、それは膝だった。踏みこんだ悠の膝が刹那の膝を押して力みを反らし羅刹掌をズラさせていたのだ。

悠「……」

幻影ではなく、小鳥遊弥一が生きていた頃、教えられたこと。

『「闘いのレベルが上がっていくほど、小技が効いてくる。」足を置く位置一つにも気を使え。例えばこんな感じだ。自分の膝で相手の膝を押し込む。内側なら外へ押す。体勢が崩れたところに打ち込む。』

『……えらく単純だな。技の名前は?』

『名前なんかねえよ。別にオレ独自の技術って訳でもねぇ。だけどな、本当に強くなるには、こういう技術も必要なわけだ。大技ばっかりドッカンドッカンってんじゃあ……いつか限界が来るんだぜ。』
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