ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【7】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

鞘香『ただ今から一時間、闘技者の休憩時間を設けさせていただきます。準決勝開始まで、しばらくお待ちください。』

放送が入り観客たちはゾロゾロと移動し始める。

「一時間じゃ回復しないだろ。」

「実質、観客のランチタイムってところだろうな。」

悠「休憩か……。おれもなんか軽く腹に入れとくかな。」

その辺りをウロウロしていると背中に自分を呼ぶ声が飛んできた。

「悠さんッ!」

悠「お前……慌ててどうした?」

振り返ると暫定秘書の串田凛が息を切らして立っている。

串田「まずいッス!城さんが大変ッスよ。」

悠「あの小娘がどうしたんだ?」

串田「このままじゃ城さんが……殺されちゃうッス!!!」

悠「……あ?なんだと?」


準決勝開始まで、あと一時間……。

闘技場からそこそこ離れ、死の森の入り口にさしかかろうとする場所で城はへたり込んでいた。

城「ハァッハァッハァッハッハッ」

そんな城に向かってある者が手を伸ばした。

「城さん。大丈夫ですか?ここまで来ればもう安心です。城さんはどこかに隠れていてください。」

それは皇桜学園の闘技者であった【美獣】桐生刹那である。

城「あ、あの……刹那さん。いったいこれはどういうことなんです?」

刹那「会場は危険です。他の皆も早く避難させないと。」

城「なっっなんですって!まさか東洋電力の残党!!」

刹那「……東洋電力……?……気をつけてください。「敵」は恐ろしく強い。奴の狙いは悠君だ。」

城「悠さんを!?」



松永工業社長の松永久秀が【解剖魔】の英はじめと助手の吉沢心美、そして車いすに乗った【滅殺する牧師】の茂吉・ロビンソンを連れて控室のドアがノックした。

久秀「悠?城?」

しかし、中は電気も着いておらず人の気配はない。

心美「……控室にもいませんね。」

久秀「ったく、どこをうろついてんのよ。せっかく英先生が治療に来てくださったのに。」

英「……ふむ。城さんには事前に伝えておいたのだが……」

茂吉「……何やら会場が慌ただしいですね。……何か異変が起こっているのかもしれません。巻きこまれていないといいが。」

控室から出たところで黒い制服の【天魔】魏迦楼羅とピンクのワンピースドレスの茂吉の妹、エレナ・ロビンソンの二人がこちらに小走りで向かってきた。

エレナ「兄様。なんだかおかしいの。」

迦楼羅「……」

エレナ「あちこちに護衛の人が立っていて、通行止めをしているの。設備のトラブルで対応中って言ってたけど……」

英「……茂吉君、きみの言う通り、何かが起こっているようだ。もしかしたらまた東洋電力がらみかもしれませんよ。」

迦楼羅「……」

奥から「匂い」がした。新しい死体の匂い。



通行止めになっていた廊下は惨状となっていた。血染めになった床や壁、そして首がねじ曲がった黒服の死体が二つ……。

護衛者別動隊殲滅部隊の隊長、片原烈堂が二人の死体の側に腰を下ろして状況を調べている。既に二人はこと切れているのは確かだが、一人の手には血のついたナイフが握られている。

烈堂「北条。関金。」

皆生「手口から見て、逃亡中の殺人犯の犯行でしょう。」

烈堂「……よくやったぞお前ら。敵に傷を負わせている。この出血量じゃ、遠くへは逃げられまい。三朝と羽合に連絡しろ。犯人は、まだ近くにいる。」
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