ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【7】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

仕合が始まる数十分前、VIPルームでは【前・滅堂の牙】王森と現【滅堂の牙】であるアギトの闘技者の座を賭けた闘いに部屋は半壊を極め、他の護衛者達はその闘いに目を離せなかった。

王森「フー……わかっただろう?お前の戦闘スタイル【無形】はあらゆる敵に対処できる。だが、同時にリスクも抱えている。」

選択肢が多いことが、常に良いとは限らない。あらゆる攻撃を選べる故に、「選択する時間」が生じてしまう。

その僅かな遅れが、致命的となることもある。特に、ひとつの技術に特化したタイプの相手には……。

アギト「…王森、礼を言わせてもらう。気付かされたよ。「捨てることで得られる強さ」に。」

敢えて技の数を絞り込む。【無形】最大の武器であるあらゆる状況に対処できる柔軟性を失う代わり、「選択の遅れ」はなくなる。

王森「トーナメントでは、疲労、ダメージが蓄積していく。体力の低下に比例して【無形】の反応遅れは大きくなる。」

アギト「そう。【無形】は連戦には明らかに不向きだ。」

王森「…このファイトスタイルなら「あの技」を今まで以上に有効に使えるはず。御前の御為。勝利の為。プライドを棄てろ。」



なんとかアギトに組みつくが瀕死の初見泉……。小鳥遊兜馬はその姿に驚愕し、VIPルームの窓に張りついて声を上げていた。

兜馬「馬鹿な!!」

馬鹿なッッ!!!馬鹿なッッ!!【星落とし】が破られた!?そんな馬鹿なッッ!!!!!

一般客席で仕合の様子を見ていた恵利央が呟いた。

恵利央「……【対の先】。」

相手の起こりを見極め、同時に動きつつ先を取る【対の先】。

この位置からは、何をしたかは見えんが……

初見の怪我を見るに、おそらく「あの技」じゃろう。

…………速くなっている?先ほどの指取りは「後の先」いわゆるカウンターじゃ。じやが、今回は初見と同時に動いた…………否、速くなったわけではないな……と、いうことは……。

初見「フゥッーー……!!」

ったく、ダサすぎるぜ、俺……こんな必死になっちまって……。

初見の身体からダメージによる震えが消え瞳に闘志の炎が宿る。

ミッシェル「……本気だ。」

あの男……初見「さん」は、勝利を諦めちゃいない……!

アギトは腕を振り上げ肘を初見に振り落とそうとした。だが、初見が前へと駆けた。相撲でいう押し出しのような動き。流石の牙もバランスが崩れ、振り上げた腕を降ろし初見の背中を掴む。

鞘香『おっと!ここは肘打ちを諦めた!』

が、動きが止まった瞬間にアギトの身体が浮き上がりかけた。投げ捨てようと初見の背を掴んでいた手を外し、姿勢を戻そうとするが逆により深く下に引きこまれる。

アギト「!!」

初見泉……どこまでも食えぬ男だ。
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