ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【7】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

牙の攻めは止まらない。三打目のローキック。更に中段への正拳二連。

大久保「……」
寅「……」

この時点で、一、二回戦で【牙】と対峙した両者が、異変に気がついた。【牙】の闘い方が変わった。

執拗な中~下段への攻撃。初見は釣られるように、ガードが下がった。

金剛「ッ~~!!!」

違うッッ!!今、注目すべきなのは、初見の方だ!!!

大鎌を振り降ろしたような孤月蹴りが初見の上半身を刈り取った。

初見「ヒューーッ」

が……初見は中腰の体勢のまま平然と上目遣いでアギトを捕えて口笛を吹いている。

これに対して、VIPルームで観戦していた闘技者達はざわめいた。

慶三郎「え?当たってないの!?」

尊「いつかわした!?」

氷川「いや!そんな動きしてねえぞ。」

マサミ「でも避けてるべや!?」

牙は即座に足を降ろして構えを取りなおした、それを見て初見は後ろに飛び下がる。

初見「おっと……反撃はさせてくれねえか、嫌だねえ。…………まあいいや。次は、決めさせてもらうぜ。」

アギト「……」

これが初見泉……【牙】になるはずだった男。



数年前のこと、とある屋敷の前にアロハに短パン、サンダルというラフな格好の男がやってきた。初見泉(当時28歳)。

初見「はえ~…!すっげえ豪邸。」

大きな玄関扉の前で黒いスーツにガイゼル髭の男が腰を折って頭を下げた。

「御足労頂き、誠にありがとうございます。初見様。」

初見「アンタらのご主人様はとんでもねえ大金持ちみてえだな~」

「いえ、ここに主人は居りません。ここは私ども……」

豪奢な扉を開けると広い室内には所狭しとたくましい男たちが並び、一糸乱れぬ正拳を放っている。

「「「破ッ!!」」」

「護衛者の鍛錬場でございます。」

初見「うわっ!なんだこりゃ!?」

「護衛者とは我等が主を護る盾となる存在。手段で基礎訓練をしているのが、護衛者になりたての者たち。「通常は」、ここからスタートです。基礎課程を修了した者は、銘銘が自由に鍛錬を行うようになります。」

初見「ふ~ん……しっかり体系化してるんだな。」

「この中から、ほんの一握り。」

選りすぐりの護衛者の中からさらに突出した者のみが、次期【滅堂の牙】の候補者に選出されるのです。

初見「その何とかの候補者のひとりに俺が選ばれたって訳か。やだよめんどくせぇ。俺、アラサーだぞ。今さら若い奴と「破ッ!」とかしたくねぇし。」

「御心配には及びません。」

護衛者には、内部育成組の他に外部からスカウトされたものもいます。現在の【滅堂の牙】もスカウト組出身です。

初見「ほーん」

「初見様、私共の主人は、貴方様に強い関心を抱いておられます。」

武者修行と称し、海外各国の地下格闘に身を投じていたことも存じております。次世代の【牙】候補として貴方を迎え入れたい、そう主人は申しております。

初見「……ほうほう、随分気にいられたねえ。」

「初見様には、【牙】候補者待遇で護衛者になっていただきます。」

既に内外から他の候補者も集められています。現【牙】が現役を退いた時、候補者の中から次の【牙】が決定するのです。

初見「……よっしゃわかった!そろそろ定職につかなきゃと思ってたんだ。俺【牙】になるわ。」
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