ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【7】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

崩壊する肉体に更に鞭を打って氷室へと飛びかかる。渾身の力を込めた拳を放つが、抜拳の射程内に入った瞬間、拳に激痛が落ちた。力いっぱいに握りしめた拳が解け、甲は裂けて鮮血をまき散らす。

寅「!!??」

右京山寅は見逃さなかった。ボクシングでいうパーリング。氷室は、叩き落としただけである。尋常ならざる鍛錬の果てに完成された鋼掌が、単純な「防御」を痛烈な「攻撃」へと変えた。

もはや誰の目にも明らかだった。速さを失った百目鬼流に、打つ手はない。されど若き鬼は止まらない。弾かれようが防がれようが拳の連射を浴びせかける。

四白、下毘、人中、神庭……人体の弱点たる弱点に一番効果的な手の形で速連射を放つ【百目鬼流:陽炎】

氷室は攻撃を受けて受けて受けて、全て受け切った。

攻撃を仕掛けている側にもかかわらず両手の甲が不気味に腫れあがり傷も広がりボドボドと鮮血を垂れ流している。

しかし、ここに来て……攻撃の速度と手数が増した。

氷室「ムッ!!!」

ついに氷室が、後退を始めた。

根津「ッ!!」

スンゲぇラッシュだ!!!止まらねぇべッッ!!!

紅「回転力が上がってやがる。」

雲仙「……」

痛めた足では、雷速は出せぬ。戦法を切り替えた。全身の筋肉を連動させた渾身の連撃。先ほどまでのように急所狙いではない。急所に応じた攻撃をやめ、さらに手数を増やした。不必要なものをひたすらそぎ落とすように……。

雲山が闘う理由。

百目鬼流当主の誇り。

父を超える為。

そして愛する人との約束。

それら一切を、完全に忘れ去った。意識したのではない。無意識の内に悟ったのだ。

誇・欲・愛

混然一体を謳いながら、多くの物に縛られていた。

全ての打撃が防がれる最中、ハンドポケットにしまわれた腕が僅かに下がる瞬間、雲山は見逃さなかった。必殺の、最後の一撃を叩きこむ。

瞬間、氷室の腰が深く大きく切られ、これ以上ないタイミングで放たれた渾身の【抜拳】。その衝撃は臓腑を駆け巡り、心房へと到達する。

「氷室の」狙い通り、決着の一撃となった。

苦痛を感じる間もなく、【魎皇鬼】の意識は、ぷつりと切れた。

一瞬空に打ち上げられた雲山は口から血を吐きだすともそのまま地面に落ちて動かなくなった。

一拍おいて、レフリーのアンナが腕を振り上げて叫んだ。

アンナ「勝負有りッッ!!!」

鞘香『きッッッ決まったアアアアアッッ!!!雷速のラブ・ウォリアー抜拳の前に散る。ヒヤリとする場面はあったものの終わってみれば圧勝!!完勝!!氷室薫、堂々の準決勝進出です!!!』
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