ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【7】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

打撃の乱射が止み雲山は後ろに飛び下がった。氷室はそれに追撃は加えない。変わらず、しっかりと足を止めて備える。

愛の戦士は地面を砕かんばかりに踏み込んだ足の皮膚が筋が骨が傷つこうと、より深く、より速く……。

時に、「愛」は「呪」に似る。雲山の肉体は崩壊へと向かっていた。

本日、最速の【雷閃】。

全てを置き去りにした鬼の必殺に対し氷室は拳を抜いた。吸い込まれていくように雲山は氷室の拳に突き当たり轟音を立てて弾け飛んでいく。

それは、【撃つ】ではなく、【置く】。

これ即ち、【攻め】の先読み。

観客席で三老人のひとり百目鬼雲仙はしわが刻まれた額から汗がしたたり落ちる。

…狙われた!百目鬼流の弱点を!
百目鬼流は、速さを至上とする故に、その動きは常に最短経路を通る。故に、突進系の技法は全て直線。

つまり、タイミングさえ合わせられれば、カウンターを突くことは難しくない。

だがっ!!机上の空論似すぎん!!!過去に、百目鬼流の速さを攻略できた者は、ただの一人も居なかった!!

この怪物め……!!!

闘技場ではドッと音を立てて雲山が地面に落ちた。

雲山「コッ……カハッ……」

胸にはこぶし大の陥没ができ、呼吸もままならなくなっている。皮肉というしかない。自身の速さが、ダメージを倍増させていた。

誰の目にも明らかだった。

【抜拳(怪腕流)】対【百目鬼流】、雌雄は決した…………はずだった。

「「「!!?」」」
雲仙「!!?」

紅「おいおい、何やってんだよ氷室の野郎!なんで止めを刺さないんだよ!!雲山は、まだやる気だぞ!!?」

氷室は鞘(ポケット)に武器(拳)を収めるとまたもや追撃にかからない。その間に雲山は全身を使って歯を食いしばり必死の形相で立ちあがっている。

鞘香『立った、雲山選手立ちあがった!!!凄まじい勝利への執念!まだ精神は折れてないぞッ!!!』

理乃の【命令】は、既に効力を失っていた。即ち、限界を超えた速さを失った。【命令】は、いくつかの強度に分けられる。強力な【命令】は、もはや【洗脳】に近い。

命令を受けた雄は、命尽きるまで闘う狂戦士と化す。一方で、思考能力が極端に低下するため、不測の事態への対処能力が大幅に低下する。

判断力を残したまま、底力を引きだす。結果、【命令】強度を下げざるを得なかった。

雲山「ふぅふぅ……ハァハァ……」

左足が軋む、胸骨が呼吸を妨げる。それでも尚、雲山が……鬼は吼えた。
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