ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【7】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

立ち見で仕合の様子を見ていた【魔人】魏雷庵が雲山の動きを見て悪魔的な笑みを浮かべる。

雷庵「静電気野郎……」

俺とジャレ合ったときよりずいぶん速えじゃねぇか…!

膝を着いている氷室の背後から雷閃で追撃を仕掛ける雲山に対し氷室は着弾直前に立ちあがり、ギリギリで避けた。

選手登場口から仕合を見ている紅は思わず叫んだ。

紅「嘘だろッ!躱すだけで精いっぱい!?」

背後から闘技場の熱気とは裏腹に真冬の風のように冷えた声が聞こえた。振り返ると崇が興味深そうに細い顎を指先でなぞりながら仕合に目を向けていた。

崇「薫が初撃を捕えきれていない……これは、面白い。」

紅「どうなってるんすかね?」

その間にも仕合は止まらない。雲山が超スピードからブレーキングでターンをすると三度目の【雷閃】。

氷室はそれでも冷静だった。真っ正面から来る鬼に対して、魔槍を抜き放つ。

ガッ!と鈍い音ともに鬼は氷室の脇を抜けていく。突きだされた右手の小指と薬指が纏めて反り折られてしまっていた。

紅「桐生にやられた指を!!!」

控室で首の治療を受けながら仕合の様子を見ていた金剛も目を見張った。

金剛「あの速さで動きつつ、正確に狙える精度が規格外……」

そして四度目の【雷閃】が氷室を穿った。

雲山は如何にして、さらなる力を手に入れたのか?

女王蜂と呼ばれる女が居た。女の武器は、【性本能(種族保存能力)】。

「命令」はあらゆる雄の「自我本能」を抑圧し、強制的に傅かせる。「雄」である限り、決して逆らえない。

百目鬼雲山も例外ではない。百目鬼流の自己暗示。「命令」による暗示の強化。

結果、脳は完全に騙される。

「身体能力の限界」を大幅に上回る力を発揮するに至る。百目鬼流が、百目鬼流を超えた瞬間である。

【魎皇鬼】と【女王蜂】
「最強の雄」と「最高の雌」

だが、二人の力を持っても攻めあぐねていた。

五度目の【雷閃】が左の【抜拳】で弾かれ、二指が折れている右の【魔槍】が顔面へ放たれ紙一重で直撃には至らないが頬が一筋の傷が浮かぶ。

速度において明らかに上回っているにも拘らず、深く攻めれば、逆に決定打をもらえかねない。それほどに隙が無かった。

堅牢なり氷室城。

雲山「フッフッフッフッ」

身を超えた力は、着実に「終わり」へと向かっていた。もはや汗の一滴も流れぬ極度の乾燥。脱水による震え。ぼやける視界。足の皮膚が裂け千切れ吹きだす血液。

これが「代償」。

それでも尚、勝利を確信していた。

……似ているな、あの時と。百目鬼流継承の儀。そうだ。あの時と、よく似ている。一度超えた試練を、もう一度超えるだけだ。揺るがぬ自信が、更に暗示を強固にする。

より強く。

より速く。

闘技者の目にも、止まらぬほどに。

トッ……音だけを残し、百目鬼雲山の姿が完全に消えた。

全闘技者の誰の目にも捕えられなかった。

「「「速い!!」

金剛「ッ……!!」

間違いない!今の雲山は、断トツで闘技者最速!!なのに、なのになぜて……最速を捕えられる!!!???

鬼が消えた次の瞬間、腰を切った氷室の目の前で打ち打ち捕えられた。

ハンドポットから拳を放つ【抜拳】
ハンドポットから手刀を放つ【抜槍(魔槍)】
ハンドポットから肘を放つ【抜斧】

雲山「ガボァッ!?」

氷室「目に映るものしか打てないのは、二流の武術家。この氷室を舐めるな。」
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