ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【7】

ー絶命闘技会ドーム:本郷モータース控室ー

黒服のひとりが扉をノックして中へと入り、声をかけた。

黒服「失礼します。氷室さま。まもなく入場時間となります。」

薄暗い部屋の奥、壁に向かって足を組んでいる座っている男がゆっくりと立ちあがり振り返った。一見は夜の街で働いていそうな二枚目の優男。

氷室「…承知しました。」

立ち上がり、振り返り、歩いていく。たったそれだけに一切の隙と無駄がなく、その後ろ姿には迫力すら感じられた。

黒服「……」

同情するよ。アレと闘わされる相手に……。

闘技場に向かい廊下を進んでいると待ち構えている男が居た。

紅「VIPルームからじゃ声が届かねえよな。俺を軽くブッ倒してくれたんだ。負けてもらっちゃ困るから勝手に間近で応援させてもらうぜ。」

氷室「……相手をよく見ておいた方がいいですよ。」

百目鬼雲山、歳は私より少し上ぐらいでしょうか……。越えてきた場数は相当の物……。

紅「……」

氷室「「強さ」とは、力や技、体格で決まるものではありません。経験が作るものです。」

紅「……俺は、追いつけるか?」

氷室「雲山さんと現時点での紅さんでは、強さの段階が違います。並大抵の鍛錬で埋まる差ではないでしょう。ですが、一年後、二年後どうなるかは、貴方次第ですよ。仕合見物は自由です。好きにしてください。」


同刻、ゴールドプレジャーグループ控室では中腰ほどではないにしろ、わずかに膝を曲げて腕を胸元に添えた立ち姿で雲山が目の前に居る倉吉理乃に話しかけた。

雲山「二回戦は雑念が入りすぎた。これは百目鬼流の型のひとつ。元は中国から伝わったらしい。ウチの流派じゃ【練氣】と呼んでる。氣のバランスを整えて、伝達をスムーズにするらしい。この型をすると不安や焦燥が薄れていく気がするんだ。だから、今も昔も闘う前にはできるだけやるように決めている。」

理乃「……雲山なりのルーティンなのね。」

雲山「むしろ幸運だった。ああいうタイプと闘う経験ができたことが。殺さずに倒すことができた……。俺は、闘える。隣の連中の出番はないよ。」

壁を一枚挟み隣の控室には三名の男が控えていた。

理乃「やっぱり気付いてのね。私の護衛名目で同行している彼ら。闘技者の経験はないけど、強さは折り紙付きよ。わかってね雲山。私はゴールドプレジャーグループの代表として私情では動けないの。」

雲山「……わかってる。俺が理乃の立場でも同じことをしたさ。今この場も理乃は、雇用主として判断すればいい。もうわかってるはずだ。誰を闘技者にするべきか。」
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