ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【7】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

壊れた右腕を力なく垂らしながら凍夜は金剛の前へと戻っていき、数メートルの距離で停止した。

金剛「……」

土壇場で気がついた。「凍夜は視えている」。懸念のきっかけは凍夜のある行動。目元に包帯を巻いているのにもかかわらず正確な目線の動きである。コンタクトの性能を積極的に試す行為が仇となった。

真偽を明らかにする為、金剛は作戦変更を余儀なくされる。

そして……弱点をさらし、首への一撃を受けた。

常人であれば動脈が突き破られていたが……胸鎖乳突筋で致命傷をぎりぎりで受け止めた。超人体質の筋肉密度+攻撃を受ける瞬間の力みどちらが欠けても作戦は成功しなかった。

……仕留めきれなかった…!だが!右腕はもらったぞ。

凍夜は首を左右にコキッコキッと揺らしている。

関林「……」

片手が使えないハンデはでかい。……だが、奴は何をしでかすか予想がつかねえ。気ィ抜くな金剛…凍夜はまだ死んでねぇ。

金剛が動く先手を取り押し切る。

大きく踏み出そうとした瞬間、凍夜は左手を挙げた。

凍夜「俺は棄権する。」

「「「『……』」」」

とまり「…は?」

金剛「……?なんだと……?」

そういうと凍夜は金剛に背を向けて歩き出した。

鞘香『き!?棄権!!?棄権といったのか!!?凍夜選手棄権宣言か!!!???』

根津「なんでだべ!?」

寅「まだ余力は残っているはず。」

ユリウス「臆したか。」

とまり「……そ!そうかこれも作戦だな!!相手を油断させようってわけか!!!そうなんだろ!?糞審判ッッ!!おいッッッ!!早く仕合を再開しろ!!!」

ざわざわと闘技場中か騒がしくなる中、立ち去ろうとする凍夜の背中に金剛が言った。

金剛「……お前、なんのつもりだ?」

凍夜「……話したところで、アンタには理解できんさ。…………そうだな、強いて言うなら。アンタは闘技者。一方、俺は一般人。そういうことさ。これが、俺の流儀だ。」

そういうと今度こそ凍夜は本当に退場していく。それを見て関林がマイクをとった。

関林『……我々は誤解していたのかもしれません。凍夜選手と我々闘技者とは、重んじるものが真逆なのです。私も含め闘技者達は「勝つこと」を第一に考えます。勝利するためには、リスクの大小を問いません。一方で、傭兵の本質は「生き残ること」リスクを避け、最も生き残る確率が高い方法を選択します。凍夜選手は、戦闘を続行することを見合わない高リスクと判断し、棄権を選んだのではないでしょうか。』

金剛「……」

まずは一つ、山を越えた。越えられるか、あと二つ。
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