ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【7】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

着地と同時に今度は後ろに下がらず前へと踏みこんだ。左手を手刀に構え金剛の懐へと飛びこんでいく。

本日三度目、心臓抜き。

胸元へと勢いよく伸びていく手刀だったが金剛はつま先が当たるスレスレで巨躯を精一杯に縮め込ませ一回転して心臓抜きを避けた。更に勢いのままに肘を立てて振るい裏拳ならぬ裏肘で顔面を穿とうとした。

凍夜はギリギリのタイミングで頭を下げたが鼻先を掠めていた。直撃でないにもかかわらず鼻からドバァッと鮮血が吹きだした。

英「嗅覚を封じた。」

春男「聴覚は師匠が無効化済み。」

凍夜に残されているのは触覚だけ!もう【視る】ことはできない!!

口元を手で押さえ停止する凍夜目掛け金剛は両手を広げて猛進した。決定打。今度は外さない、離さない、完全に絞め潰す。巨腕が動けぬ敵を挟み捕えた。

金剛「……!!」

「「「……」」」

捕えたはずだった。しかし、腕の中には何もいない。動けぬはずの凍夜は捕縛を避け……側面から手刀を金剛の首に突き立てた。

凍夜「惜しかったぜ。……だが、油断したな?」

人差し指から小指までの四指の第二関節までズブッと金剛の首に突き刺さっていく。

金剛「ガバッ…!!」

目元に包帯を巻いている凍夜の目には、金剛が血を吐きだしながら崩れ落ちる姿が映っていた。

時は遡る……。

第一仕合後の中休み、凍夜は岩美工業社長の東郷とまりはある医療班を準備し、凍夜の目に施術をしている。

とまり「技術の進歩ってのは想像力の発露だ。テレビ電話も空飛ぶ自動車も発想から生まれた。きっかけは、餓鬼の時分に観た映画だ。」

人型のエイリアンが人間を殺しまくるだけの映画だが、小道具がサイコーにイカしてやがったんだ。特に、「視覚」を補うギミック満載のマスクがな。

凍夜「それが「眼(コンタクトレンズ)」の開発秘話か。ロマンチストなんだな。」

とにかくだ。その「眼」には、マスクと同じ機能を搭載してある。まだ、どこのマーケットにも流してねぇ。いわば試作品だ。

凍夜、テメェは被検体第一号だ。

第三仕合開始前、金剛と対面した凍夜は目元に巻かれた包帯の下で敵を捉えていた。

「モード」は、全五種類。振動感知。心臓の位置を正確に把握。

赤外線感知。

蛇には「ピット」と呼ばれる器官がある。視力の弱い蛇が獲物の熱を感知し、捕獲するための赤外線探知機である。

これを応用した物がサーモグラフィー、凍夜の「眼」である。

まったく、とことん恐ろしい女性(ひと)だ。仕合じゃ、大したアドバンテージになりそうにないが、目が治るまでは大いに役立ってもらおう。その分、しっかりデータを取ってやるぜ。
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