ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【6】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

ざわざわと会場にどよめきが広がりだす。それもそうだ、一見すると戦いを放棄して逃げ回りふざけているようにしか見えない。

だが、その実、対戦相手である悠はイラつきと焦りの色が浮かびだした。

左右に振るっても払い退かせられない。ならばと足を後ろに振り上げて蹴り飛ばそうとした……が、いくら真後ろにピタッと張り付かれているとはいえ無理やりな蹴りは当たらなかった。

だが、それも織り込み済みだった。悠はパンッと地面を蹴って大きく一回転して振り向きざまに裏拳を叩き込んだ。拳骨の先にゾリッとした感触、フェイント込みの奇襲反撃は摩耶のほほ肉を切り裂くも直撃とはならなかった。

真正面に向き合いバチッと視線かぶつかり合う。裂けた頬からドボッと血が流れ落ちる。今や色白の摩耶の顔の半分は血化粧で染まっていた。

美しくもあるが悍ましさもある生の息吹をヒリヒリと感じさせる極限の表情。さらに摩耶は薄く笑った。悠は、背筋に冷たいものが走った。

瞬間、ゴッ!と衝撃が上がる。ただの前蹴り、だがしっかりと金的を狙った一撃だった。間一髪のところで両手をクロスさせ、股下に備え直撃は阻止した。

しかし、同時に目の前がバチンっと爆ぜた。やられたのは恐らく掌底が張り手、腕が下がった瞬間に顔面を打たれたのだ。

悠「ッ……!」

視界が暗転する。追撃されるとまずいと本能が反応し大きく飛び下がった。ガードを固めつつ必死に目を開けて敵を見定めると……。

追撃の手はなかった。摩耶は肩を揺らして球の汗をこぼし激しく呼吸をしている。

当然といえば当然だ。悠も摩耶も万全とは程遠い状態。そして互いに大なり小なりさらにダメージ受けてより深い疲労がのしかかってきている。

そしてなにより、出血。悠は打撃と抑え込み、指をへし折られているが裂傷は少ない。腹に刺さった突蹴りも浅くすでに出血は止まっている。

対して摩耶は【鉄指】ふくらはぎにかなり深い穴をあけられ、蟀谷、頬の肉をえぐられ未だに血は止まっていない。

流血による精神的なダメージもあるが、文字通り命が流れ出している。血は生命なり……。

摩耶「フーーーッ……フーーーッ……。」

全身が気怠い、痛みをはっきり認識してくるようになった……。でも、まだだ、まだ、いける。伝えるな……激痛(いたみ)を脳に伝えるな!!

すると不意に痛みが鎮まった。

それは意図的ではなかった。ある意味、祈りにも近い切なる願いは……脳内麻薬(アドレナリン)の異常分泌をという形で実現したのだ。
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