ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【6】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

互いに膝はついているものの上半身はしっかりと立て、摩耶は悠の両肩を抑えかなりの密着距離で停止する二人。

このまままた膠着かと思われたその時、ミシッと歪な音が摩耶の後頭部に響いた。静かにゆっくりと回された悠の手が首の後ろを掴んでいた。

【小鳥遊流:金剛ノ型・鉄指】

ミヂッミヂッと肉にめり込み骨を潰していく。

これはまずいと摩耶は即座に悠の腕を押し払った。それこそが真の狙い、払われた腕を引きながら摩耶の手首をしっかりとつかんだ。

【小鳥遊流:冬花ノ型・やな…

技に入ろうとした瞬間、摩耶は悠に抱きつくように前へと飛びこんで首に腕をまわした。

悠「!?」

摩耶「その技は、何度も見たよ!」

小さな身体の全体重をかけて思いっきり振りぬいく、いくら悠とはいえ中腰の体勢で首の一点に力をかけられたら振りほどくことはできない。背中から地面へと叩きつけられてしまう。

バンッ!と音を立てて仰向けに倒された悠、摩耶はその顔面に肘を振り降ろした。

「「「!!?」」」

バチンッ!間一髪、ギリギリのところで肘鉄を両手で挟み抑えた。そして押し返すと同時に身体を起こしたが完全立つ前にまたも摩耶に抑え止められた。

観客席で松永久秀はふーっと息を吐いた。

久秀「今のは危なかったわね。」

串田「危機一髪ッス…」

久秀「あの不安定な体勢でも小柄な身体を生かして体重移動を自在に操ってる。顔面に一撃でも落とされたら一巻の終わりね。」

「「「ウオォォォォォッ!!」」」

鞘香『さあ!再び組み合う形になった!!』

ジェリー『根性比べデース!!!』

摩耶「ぜぇはぁ……っ……はぁぁっ……!」

悠君、もう体力は底をつく寸前だよね?ここから先は、何もさせないよ。

悠「ハァハァハァハァ…」

……摩耶、ありがとよ。お陰で、体力を使い切れた……。

ガクンッ…と悠の頭が下がり落ちる。刹那、摩耶は驚愕する。抑えているはずの男が人の形をした液体に変貌した……。

摩耶「!?」

ズルンッと摩耶の抑えから抜けだし、シャッシャッと地面を滑りながら悠はそのままの体勢で大きく後ろに下がった。

ジェリー『Hmm…?なんだか妙な動きデシタ?汗でclutchがslipしやがりマシタか?』

摩耶「はぁはぁ…。」

もちろん、本当に液体になったわけではない、そんなはずはないのだが……。捕えていた腕の中からノーモーションで抜けられた事実……。摩耶は警戒色を強めつつ立ち上がる。

それと同時に悠も立ちあがった。

悠「ふーーっ。」

……あそこで学んだのは、奥義だけじゃない。奥義習得の修行中、おれは限界だった。質と量の少ない「飯(虫)」では、到底栄養が足りなかった。全身に広がる痛みと疲労、もうろうとする意識の中、このままじゃ死ぬ……。その時だった、不意に全身からけだるさが消えたのは……。

夜見『体が軽くなっただろ?その感覚を覚えておけ。人間はな、極限までエネルギーを消耗すると「予備バッテリー」が作動する。半端に力を残すくらいなら、一度、底まで使い切れ。』

大きく深呼吸した悠は構えをとる。力み過ぎず、されど抜き過ぎず自然体な立ちふるまい。

立見席から包帯を巻いた目で視やる【自在遊戯】結城・クリストファー・凍夜。

凍夜「……身体に淀みがなくなった。」

これは……「自食」か。【ハウスキーピングタンパク(細胞の生存に必要なたんぱく質)】が分解され、生命活動に充てられた。

死の一歩手で、まだ闘おうってのか……「修羅」だねぇ。
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