ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【6】

ー絶命闘技会ドーム:西品治警備保障控室ー

壁にかけられている大型モニターに摩耶の登場が映し出された。それを見届けるとアダムがいった。

アダム「……さて応援にいってやるか。」

暮石「…西品治君。」

西品治「……はい。」

暮石「大久保君、君はどうする?」

床で胡坐をかいている大久保は顎に手を添えて考えていた。

大久保「……暮石はん。さっきのアレ、アンタが教えたんか?」

暮石「……いや。残念ながら……」

大久保「ほんなら、鈴猫ちゃん?」

鈴猫「私は八極だけで……。」

西品治「……(この誤算は喜ぶべきか)」

大久保「……(あの坊、途端場で化けよった。)」

仕合が始まる少し前のこと……。控室では摩耶と大久保が対峙していた。

【皇帝】アダム・ダッドリーがやや声を張った。

アダム「おい!マジでやめとけって!」

しかし、その声には耳を向けず摩耶は大久保から目を離さない。西品治明がいった。

西品治「もういいアダム。」

摩耶が負っているダメージは休みを挟んでも回復しきれるものではなく今もハァハァと荒い息をこぼしている。

そして【格闘王】大久保直也、彼がこの場に居る理由。

大久保「俺を恨まんといてや、坊。俺は西品治はんから格闘者交代を頼まれただけなんや。交代予定だったアダムも大けがしたらしいやん。」

摩耶「……僕が雇用主でも交代させるよ、交代したくないなら、まだ闘えることを証明しなきゃね。」

アダム「~~ッ、ヘイ、キャットGirl!アンタも本当に止めないのかよ!」

鈴猫「私も交代すべきだとは思ってます。だけど、摩耶君が闘いたいっていうんなら、私は摩耶君の雇用主としてその意思を尊重します。もちろん、この勝敗の結果にもちゃんと従いますけど……。」

大久保「安心せい、ガチで殺し合うわけやない。ウォームアップもかねてな、コイツを使って「代表選考スパーリング」や。目つき、金的は寸止め、投げと関節と絞めは形が極まった時点、打撃や蹴りも決定的な一撃がヒットする形の時点で一本ってな感じでいこや。5分一本勝負。決着つかへん場合は、西品治はんの判定や。」

大久保はマウスピースをはめ込むとハンドグローブを着けた両手をパンパンッとぶつけた。

摩耶「……Ok。」

大久保「証明するしかないわな、代わりなんかいらへんってことを。」

【摩耶の対絞め技の師匠】暮石光世は薄く笑った。

……出来レースだね。このスパーリングルールは、圧倒的に大久保君が有利だ。仮にアダムが「選考」に名乗りを上げても、アダムの戦法は、このルールでは真価を発揮できない、投極絞いずれかの形に入られて一本負けってとこか。

敗退の中で怪我が軽く、尚且つ優勝が狙える確率が一番高い人物、つまり最初から勝たせたいのは大久保君なわけか、糸引くね~西品治君。

西品治「よし、二人とも準備は良いな?特に摩耶、くれぐれも無理はするなよ。」

暮石「待った。ジャッジは俺がしよう、西品治君は、診察に専念した方がいい。」

西品治「暮石さん。……そうですか…では、お願いします。」

暮石はふたりの間に立った。

摩耶「いつでもいいよ、先生。」

大久保「……アンタが坊の師匠やったんか、そりゃ強いはずやわ。」

暮石「いやいや、整体してあげてるだけッスよ。師匠なんて大げさなもんじゃないッス。……よし。始め。」



最初から流しのつもりやったけどなー……客観的に見て、キャリアも体格も総合技術も俺が上やし、おまけに坊は大怪我や。

唯一、警戒せなあかん【黒状態(ブラックモード)】の間合いに入らんように打撃中心でのらりくらりと攻める。時間切れになったら、西品治はんが、優勢だった俺を闘技者に指名する。

そういう算段だったんやけどて……ルールを逆手に取られた。アホか俺は。

摩耶『言ったよね?「形に入った時点で一本」だって、僕の勝ちだよ。』

最終的に、西品治はんも認めざるをえなくなった。やれやれ…「代理ボーナス」は夢と消えたで。……しかしまあ、アレはかなり厄介や、おそらく俺が本気でも、初見でアレは躱せんかった。

また一人、厄介な敵が増えよったわ。
80/100ページ
スキ