ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【6】

ー絶命闘技会ドーム:非常用階段ー

非常用階段に繋がる扉を少し開けて中の様子を見る。人の気配ない。ゆっくりと大きく開いて中へ入って、扉を静かに閉じた。

崇「上か、下か」

上階、下階へと伸びる階段はどっちも相当な長さだ。

鈴猫「せめて摩耶君たちがどの階層に居るかわかればいいんだけど……。」

崇「……」

鈴猫「崇?」

崇「どうやら、ここを選んだのは間違いだったかもしれんな。」

鈴猫「え?」

カンカン、カンカンっと大人数が階段を昇ってくる音が響いてきている。

崇「どうする?」

鈴猫「どうするって……崇も考えてよ!!」

そういうと崇は肩を竦めて下を覗きこんだ。そして、ジッと見つめたと思うといきなり手すりを飛び越えて飛び降りたのだ。

鈴猫は息を飲み慌てて下を覗きこむと同時に男の悲鳴が上がった。そして、ゴッゴッ!と鈍い音が響きシンっと静まり返った。

崇「おい、降りてこい。」

その声が聞こえ階段を駆け下りた。1フロア降りた先では白い揃いのスーツを着た男たちが倒れ伏せていた。一番ひどいのは恐らく真上から崇に踏み潰された男で血の海に沈んでいる。

鈴猫「うわっ…」

崇「感心してるところ悪いが次が来てるぞ。」

ハッと顔を上げると白いスーツの集団がまるで蟻のようにゾロゾロと駆けあがってきている。
先頭に立っている男が崇に倒されたガーディアンを見て、次に視線を崇と鈴猫に向けた。そして、懐からトランシーバーの様なものを抜くといった。

「こちらF班。よく分からん二人を発見。処分する。」

処分、つまりは殺すといっている。するとトランシーバーから返答の声が響いた。

『こちらG班。手間取っている医務室に応援をよこしてくれ。』

それを聞いて崇がボソッと言った。

崇「医務室……あいつは大丈夫かな。」

鈴猫「誰?」

崇「なんで、知らないのか?悠は今、医務室で意識不明らしいぞ。」

鈴猫「えっ!?」

崇「まぁ、応援を呼ぶぐらいだから他の闘技者が居るんだろうが……。」

「なにをごちゃごちゃいってる。」

そしている間に武装したガーディアンがすぐ真下までやってきていた。崇は倒したガーディアンを投げ落としてぶつけてやろうかと考えた矢先、鈴猫が前へと踏みだした。

鈴猫「そこ……退いてください。怪我したくなかったら。」

先頭に立つガーディアンがこの集団の頭なのか、奇妙に湾曲した刃物を振り上げた。

「何を言っているんだ。この女は……死ね。」

決して広くはないこの場所で中振りな刃物を巧みに操り鈴猫へ振り降ろした。

【守護者ランキング7位】北条。

今この時、いくつもの不幸が重なっていた。

1つ、ただの女と見誤ったこと。

2つ、小鳥遊悠が医務室で意識不明ということを知ってしまった事。

3つ、そこに襲撃がされていること。

4つ、桜花鈴猫が本気で切れていたこと。

自身に向けて振り降りてくる刃に目もくれず、鈴猫は大きく息を吸いこみ、渾身の力を丹田に集め一気に踏みこんだ。

先に仕掛けていたはずの敵の斬撃よりも速く、地面に踏み下ろした。

【八極】とは【爆発】である。

瞬間、文字通り大爆音と衝撃が炸裂し先頭に立っていた北条もろとも他のガーディアン達は身体も意識も吹き飛んでいた。

だが、同時に5つ目の不幸が鈴猫を襲っていた。自分の足下、つまりは階段の耐久が鈴猫の一撃に耐えきれず崩壊してしまったのだ。ガーディアンたちと瓦礫が下に落ちていく中、鈴猫も技後硬直でバランスを崩し…。

鈴猫「あっ……」

崇「なにやってる。」

落ちそうになる中、崇が鈴猫の腕を掴んで引っ張り上げた。

鈴猫「あ、危なかった……ありがと。」

崇「……そんなことはいい、どうするんだ。」

崇が不満そうに指さした先、下へ続く階段は見るも無残に崩壊し、バックリと虚空が広がってしまっていた……。
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