ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【2】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

悠「ん……あれっ……待てよ。」

往水「はいはい?」

悠「貼って困るもんじゃないのに、なんで結花さんたちは断ったんだ?」

往水「……さぁ、どうしてでしょうね?」

とぼけた顔で首をすくめた中村さんに、ピンときた。

悠「あー……。」

往水「な、なんです?」

悠「立ち寄ってやる代わりに袖の下を寄越せっていうんだろ?」

往水「ぎくぅ!そぉんなことないですよぉ!」

悠「……」

はな「……」

往水「あ、なにも現なまじゃなくて、現物支給でもいいんですよ?」

はな「現物支給です?」

往水「ほぉら、お疲れさまの意味で、お茶とお茶菓子を出してもらうくらいで手を打ちますって」

悠「っか、それって今となんか変わってるのか?」

往水「あ……同じですね……」

悠「……」

はな「……」

往水「……じゃあ、ええ……シールだけ、そこに貼っていきますね。ノルマは本当にあるんで」

悠「……」
はな「……」
吉音「……」

おれたちが無言で見つめるなか、中村さんは軒先にぺたりとシールを貼って、そそくさと帰っていった。

吉音「ねぇ、悠」

雑踏に消えてゆく中村さんの背中を眺めながら、吉音がぽつりと呟く。

悠「あー?」

吉音「いくみん、またお金を置いていかなかったね。」

悠「うん」

はな「財布を取り出そうともしなかったです」

悠「……うん」

吉音「明日からも、こんな感じで立ち寄っていくのかな?」

悠「……考えたくない。」

なんだ、これまで通りだ……っと、思ってしまったことに何より泣けてくるのだった。

「……おい。」

悠「あ、はい…いらっしゃ……寅…。」

寅「なんだ。普通にしてんじゃねえか。」

寅は包帯をグルグルに巻いて、グローブをつけているような右手をプラプラと振るう。

悠「そうでもねぇよ。こちとら歩くのもやっとだし、アバラはやっぱりヒビいってた。状況だけならお前よりボロボ…」

吉音「あー!あのときの天狗党の一味!」

吉音は寅が誰なのかやっと気がついたらしく、声をあげる。

寅「元天狗党だ。いや、ていうよりは天狗党でも無かったな。」

吉音「じゃあなんで悠を!」

悠「いいんだ。新。」

おれは吉音を制した。

寅「なんだ?そのお嬢様、お前の女だったのか。」

吉音「え?そう見える?」

はな「見えないです」

吉音「えー…」

悠「コイツは用心棒だ。」

寅「用心棒ぉ?お前にそんなもんが必要(いる)か?」

悠「いっただろ。おれは腑抜けの臆病者だって」

寅「よくいう…。」

悠「っか、お前はどうなったんだ?」

寅「……左近の手回しでおとがめ無しだ。」

悠「御伽ヶ島左近か…あいつはあいつで何者なんだ?」

寅「さぁな」

悠「さぁなって…。いいや、っで何しにきた?」

寅「宣戦布告だな」

悠「あー?」

寅「治ったらお前に再戦する予定だ」

悠「止めてくれ。」

寅「それまでは客として来てやるよ。じゃあな」

悠「……」

はな「ほんと、トラブル寄せるですね」

悠「……」
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