ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【6】

ー餓鬼ヶ原樹海:深部ー

何十、否、何百キロはあろう重りのベストを脱ぎ棄てるとドズンッという冗談みたいな音を立ててじっとりと柔らかい地面にめり込んだ。

夜見はコキッコキッと肩や首を軽く回していつでも来いという視線を向けた。

対して……悠は満身創痍。とっくに服は破れ散り身につけているのは僅かに原形を残したズボンだけ、そしてなにより全身に夥しい傷、骨折、筋断裂……もはや痛みは感じない。悪寒が全身を包み、立っているだけで、精一杯の状態。

だが……今までになく身体が安定している……?昔、ジジイが言ってたな。これが「骨で立つ」って感覚なのか。

夜見「小僧、今日までよく修行に耐えたな。真に求める物は、死を超えた先にある。つかみ取れ「生」を。」

そういうと夜見は動いた。

【瞬鉄・爆】

超加速からの硬化させた肘での一撃、それは夏喜ノ型と金剛ノ型を合わせた技。悠は身体を捻り直撃を避けたが脇腹の皮膚がごっそりと持っていかれた。

紙一重……!!と避けれたことを幸運に思いつつ悠の中で不安の種が開花した。冬花夜見が四季の技を使えるのは当然としても、【金剛ノ型】を使ってきたこと……本来、【金剛ノ型】というものは存在しない。【金剛ノ型】は悠が金剛の技術を自分が扱える形にしたものだ。だが、考えてみればおれよりも格上の夜見がおれの出来ることをできないわけがないのだ。

一瞬怯んだものの、ここでぶっ倒れたら負ける。地面を踏みつけて構えを取りなおすが既に夜見は次の攻撃に移ってきた。両腕を振ると二の腕から先がフッ消え風が吹く。

【消える腕】、実際に腕が消えているわけでないあくまでも消えたように見える蠅の動き、だが、捕まれば終わる。

悠も腕を振るう。

【小鳥遊流:春夏ノ型・水燕】

多可変軌道のラッシュを攻撃ではなく防御として使う。四方八方から迫りくる魔手をすべて弾き反らしていく。

蓄積したダメージ。栄養失調。極度の疲労。極限まで追い詰められた肉体は、尋常ならざる集中力を発揮していた。

一歩踏みだそうとする悠、その足下には鋭利な石が突き出していたが皮膚の先に触れた瞬間、着地位置をずらした。

視える!!!周囲の地形を、五感が感じる!!!!そして、夜見の動きも!!!

消えている腕、技をかけようと迫りくる手、しかし……本命は渾身の右ストレート。

硬く握られた拳が迫って来る。

こ・こ・だ……!!

不気味なほどの静寂が支配する餓鬼ヶ原樹海に爆音が響いた。高い木々がなぎ倒され土煙が上がる。

悠「……」

夜見「……」

悠「…………」

夜見「…………見事だ。」

拳の先から肩の辺りまで肉が裂けている右腕を降ろしながら夜見がそう呟いた。

悠「ゼェゼェッ…」

背後で荒い息を漏らしながらなぎ倒した木々の前で立つ悠。

夜見「四季流奥義には名がいくつかある「四季送り」「四鏖(しおう)」「四獄」……まぁ、それはいい。確かに引き継いだぞ。」

そのまま意識を失った悠。気がつくと餓鬼ヶ原樹海を見降ろせる崖の上に転がされていた。意識が飛んでいる間に治療されたらしく全身が包帯で巻かれていた。

城「あ、悠さんが気がつかれましたよ。」

夜見「やっと起きたか。」

何かごそごそしている夜見、どうやら自分で裂けた右腕の傷を針と糸で縫っているらしい。城は断固としてそっちに振り向こうとしていない。

悠「……」

夜見「なんだ、その眼は俺を恨むのか?」

悠「……恨む理由がねえ。奥義を習得するには必要なことだった。それだけのことだろ?」

夜見「……あるいは、もっと良い方法があるのかもしれねぇ。効率よく、苦難なく奥義を伝授する方法が。だが、俺はこの方法しかできない。極限まで体力と精神をすり減らした状態で、「感覚」を覚醒させる。まぁ、俺は天才だこんな方法は取らず体得したがな。」

悠「いってろ……。」

夜見「お前に四季流の奥義は伝えたぞ。」

悠「ああ……。伝わったよ……。」
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