ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【6】

ー餓鬼ヶ原樹海:深部ー

修行三日目の朝日が昇ると音もなく冬花夜見が現れた。それを見つけるや否や小鳥遊悠は飛びかかっていく。

ダメージは確実に蓄積されていた。だが、この異常事態に肉体が反応。モルヒネの5.6倍の鎮痛作用を持つエンドルフィンを大量分泌することにより、平常時と同様の動きを実現していた。

【小鳥遊流:春夏ノ型・水燕】

多可変の軌道を描くラッシュを浴びせかけるが夜見は平然と片手でそれをいなす。

夜見「今までにないくらい脳内麻薬がドバドバだろ?リミッターを外す感覚、よく覚えておけ。」

一瞬の隙を突いて悠は余裕で口を聞いている夜見の手首を掴んだ。

【小鳥遊流:冬花ノ型・柳】

夜見の身体が大きく一回転して空中に投げだされる。そのまま頭からの落下……とはならず、夜見は空中で身体を捻り自分の腕を掴んでいる悠の手を蹴り飛ばした。弾かれてがら空きになったボディに鋭い正拳が叩きこまれる。

血反吐を吐きながらのたうつ悠を無視して夜見はその場を後にする。

修行三日目、終了。

そして、四日、五日、六日と毎日ボコボコにされる日々が過ぎていく。だが、同時に悠も適応力が上がっていき夜は火を起こし、食糧である虫を焼いて食べてさらなるエネルギー補給も図っていた。

だが、それでも夜見という怪物に一撃を入れることはできないまま数日が過ぎ、九日目のこと……。

投げ飛ばされ木に身体を叩きつけられ地面へと落ちる悠。

夜見「よし。夜明けまで休憩だ。しっかり休んでおけよ小僧。」

血と泥と草汁と傷にまみれた身体を横たわらせ微睡む意識の中で悠は思った。

……何日たった?……どうでもいいか。こんな手枷、足枷をはめられて…………何日やろうが……夜見に勝てるはずがねぇ…………。

そう思ったと同時に疑問が浮かんだ。

……待てよ?よくよく考えてみたら…………「何の為に」重りをつけた?

『……まあいい、合わせて40キロくらいだ。』

奴は、重りの重量に無頓着だったつまり、筋力の鍛錬が目的じゃない……?そもそも、格上の夜見にハンディをつけて闘うなんて不自然だ。

考えろ。一体何が目的なんだ。

身体を起こそうとしたが腕の重りに引っ張られズルッと身体が落ちた。

クソ……!もう起き上がる体力も残ってねぇか……今は少しでも体力を回復させねぇと……とりあえず楽な姿勢に…………。

その時、小鳥遊悠に電撃が走る。

そッッッ……そうかッ!!!

十日目。朝日が昇ると同時に修行が開始されるがここに来てようやく変化が起きた。

夜見「……悠。合格だ。理解したようだな。」

一撃、たったの一発の拳ではあるが夜見の胸を穿ったのだ。

悠「ゼェゼェ、ハッハッ…」

夜見「これでようやくお前は奥義習得のスタートラインに到達した。ここからが本番だ。重りを外せ。俺も枷を外そう。死ぬなよ?小僧。」

上着を脱ぎ棄てると分厚い防弾チョッキのような重りがあらわになる。

悠「ハッハッ……」

……おれの倍は重りをつけてやがる……!やっぱりアンタ、バケモンだぜ…ッ!
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